
江戸の浮世絵師・葛飾北斎の筆致が、現代のレザーアイテムとしてよみがえる。レザーブランド「創悦」は、東京・日本橋で開催中の展覧会「HOKUSAI―ぜんぶ、北斎のしわざでした。展」とのコラボレーションにより、北斎が挿絵を手掛けた曲亭馬琴の読本『椿説弓張月 続編・巻之三』をモチーフにした限定レザーアイテムの発売を開始した。
今回のコラボレーションは、浮世絵や挿絵を通じて数々の革新をもたらした北斎の表現力と、日本の職人による現代的なクラフトマンシップを融合させた試みだ。使用された図版は、東京・日本橋の美術商「浦上蒼穹堂」が所蔵する貴重な原本をもとにしており、平安時代の武将・源為朝を描いた物語の中でも印象的な一場面、「妖僧・曚雲」の誕生シーンがモチーフとなっている。
この挿絵では、北斎が集中線や効果線といった、現代の漫画にも通じるダイナミックな技法を駆使しており、約200年前に描かれたとは思えないほどの迫力と、光が炸裂するような劇的な場面が細部まで緻密に表現されている。まさに北斎の創造力が爆発した歴史的一枚といえるだろう。
「創悦」は、この力強いビジュアルを植物性タンニンで丁寧になめしたナチュラルレザーの上に、高精細インクジェットプリントで忠実に再現。シンプルな革製品に、物語の息吹とアートの躍動が宿った。シリーズ名は「続・椿説弓張月 シリーズ」。ショルダーバッグ(39,600円)をはじめ、ブックカバー(9,460円)、しおり(1,980円)、コースター(1,980円)といった全4種がラインアップされている。いずれも日常の中にアートを取り込むことができる、実用性と芸術性を兼ね備えたアイテムだ。
素材や製法にも徹底的にこだわり、使用されている革は国内の職人が一点ずつ仕上げたメイド・イン・ジャパン製。使い込むほどに革が手に馴染み、色艶が深まっていくため、長く使い続けることで自分だけの風合いへと育てる楽しみも味わえる。販売は「HOKUSAI展」会場内のミュージアムショップ限定で、数量も限られている。
曲亭馬琴は、江戸時代後期に活躍した戯作者で、伏姫と八犬士を巡る長編伝奇小説『南総里見八犬伝』の作者としても知られている。葛飾北斎は一時期、馬琴宅に居候するほど親交が深く、馬琴作品の挿絵を数多く手がけた。北斎はまた、日本漫画の源流のひとりとして多くの研究者が認める存在でもある。1814年に刊行した『北斎漫画』は全15編・約3900図におよぶ圧倒的なボリュームで、人物や動植物、風景、人々の日常を躍動感あふれる筆致で描き出している。
ちょうど今、人気イラストレーターによる「トレパク(トレース盗用)」騒動が世間を賑わせているが、北斎は自らを「画狂老人卍」と名乗り、90歳で亡くなるまで絵画と表現の本質を追求し続けた。スケッチ集でもある『北斎漫画』では、人のしぐさや表情を線で捉えることに主眼が置かれており、北斎の卓越した観察力や洞察力を実感できる。
「創悦」が200年前の北斎と馬琴という黄金コンビを現代によみがえらせ、新たな命を吹き込んだ限定レザーアイテム。歴史の中で生まれたアートと現代のクラフトマンシップが出会ったストーリーと北斎の筆致を手のひらで感じながら、日常に取り入れてみてはいかがだろうか。