韓国・ソウル市の繁華街である梨泰院(イテウォン)で10月29日夜に起こった大事故は、すでに「梨泰院の惨事」と名付けられているようだ。死者156人(日本人2人含む)、負傷者100人以上とされる。この日本人死者は、富川芽生さん(26歳)と小槌杏さん(18歳)の2人だ。娘を異国の大惨事で失った悲しみは計り知れないものだろう。同情を禁じ得ない。その小槌さんの家族は「娘は、韓国の文化やファッション、音楽に興味を持ち、将来は日本語教師になりたいという夢を持っておりました。8月より渡韓し、大学生活を送っておりました(以下省略)」と話している。
この父親の言葉からは、現在の日本の女子の「韓国熱」の一端を感じることができる。私の周りにもコロナ禍前には、韓国留学したり、しょっちゅう韓国に遊びに行っていた女子大生がかなりいた。韓国の化粧品ブランドの人気はかなり前から知っていたが、韓国ファッションも最近は大変な人気らしい。「『ザラ』や『H&M』なんて問題にならないくらい安い」のが人気の要因らしいが、どうもそれだけではないのだろう。韓国には、BTS、TWICEなどの世界的にも人気のアイドルグループがいるし、食べ物だって日本とはちょっと違うが、大半は日本人好みが揃っている。日本に息苦しさを感じている若い女子に韓国が人気なのはなんとなく分かる。すでに原宿を大きく引き離して若い女子に人気のコーリアン・タウン新大久保の存在は言うまでもない。
私がソウルファッションウィークに招待されてよく行っていたのは1990年代だが、その時のコレクションブランドを見て、「ヒイキ目ではなくて韓国のファッションが日本のレベルに追いつくには少なくとも10〜20年はかかるのではないか」という感想を持ったものだ。よく考えたらあれから20年以上が経過しているのである。現在あまりにもミニマルでカジュアルでコンサバすぎる日本のファッションにモノ足りない女子にとっては、韓国ファッションは新鮮に映るのではないだろうか。それが人気の理由のように思える。
今回の「梨泰院の惨事」で引き合いに出されるのが、2014年に312人の死者を出した韓国沖で起きた海難事故セウォル号沈没事件だ。韓国の防災体制の脆弱さが言われている。また熱狂しやすい国民性を指摘する声もかなりある。しかし「梨泰院の惨事」についてはコロナ感染拡大のために自粛されていたハロウィンが3年ぶりに復活して、大変な盛り上がりを見せたことが事件の最大の原因だろう。これに似たような事件が日本でも起こり得るだろう。消費では、コロナ禍が去って大復活のインバウンド消費を含めた「リベンジ消費」の台頭が言われているが、年末にかけて大人数が狭い空間に集まる「リベンジ・イベント」も要注意だろう。
しかし「コロナ禍が去った」というのも、気温の低下とともに怪しくなっている。11月3日、東京都で6686人の新型コロナウイルスの新規感染者が確認され、これは前回の木曜日よりもなんと2700人増加した。東京では12日連続で前週を上回っており、第8次感染拡大といっていい状況になっている。これにリベンジ消費やリベンジ・イベントが合わさって、とんでもない事態にならなければよいが。