
化粧品メーカーのマンダムは9月10日、経営陣が参加するMBO(マネジメント・バイアウト)を実施すると発表した。買収主体となるのは、英投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズ系が設立したカロンホールディングス。9月下旬をめどにTOB(株式公開買い付け)を開始し、1株1960円でほぼ全株を取得する方針だ。買い付け総額は約793億円に上る。TOBが成立すれば、マンダムは東証プライム市場から上場廃止となる見通し。同社は「本公開買付けに賛同する」とコメントを出している。
買収を仕掛けるCVCキャピタル・パートナーズ(以下、CVC)は1981年創業で、総額約35兆円を運用する世界有数のプライベート・エクイティ。日本国内でも日用品や化粧品分野への投資に積極的だ。代表的な案件としては、資生堂グループから切り離された日用品事業ファイントゥデイが挙げられる。同社はヘアケアブランド「ツバキ(TSUBAKI)」やメンズコスメ「ウーノ(UNO)」を展開し、CVCの資本を背景に再成長を目指している。今回のマンダム買収も、同様にブランド再生や事業効率化を進める狙いがあるとみられる。
マンダムは1927年に「金鶴香水」として創業し、香水や石けんの製造販売からスタートした。1971年に現在の商号へ変更し、男性化粧品分野で存在感を高めていく。特に1978年に投入した「ギャツビー(GATSBY)」は、ヘアスタイリングやスキンケア商品を幅広く展開し、男性に浸透。ブランド戦略でも先進的だった。1970年代には米俳優チャールズ・ブロンソンを起用したテレビCMが話題を呼び、当時の「マンダム=ダンディズム」というイメージを確立。「ギャツビー」では、松田優作ら国内スターを広告に起用し、男性用化粧品市場の拡大を牽引した。
今回のMBO決定により、マンダムは株主への還元方針を大きく転換する。2026年3月期の中間配当・期末配当は実施せず、TOB成立後は株主優待制度も廃止する予定だ。これにより株主への直接的な利益還元は終了することになる。
化粧品・日用品業界では、近年、事業再編や外資ファンドによる買収が相次いでいる。背景には、国内市場の縮小や消費者ニーズの多様化がある。マンダムも2023年に30代を中心とした男性の肌と心に着目したメンズオーガニックコスメブランド「アオノ(aono)」をローンチするなど、積極策を展開しているものの、男性化粧品市場の成長鈍化に加え、韓国ブランドや外資勢との競争も厳しさを増している。
今回の非公開化は、こうした市場環境の変化を受けた抜本的な戦略転換といえる。MBO後は、商品開発やデジタルマーケティング、海外戦略をより大胆に進めることが可能になるだろう。マンダムのMBOは、老舗化粧品ブランドの再生と、グローバル市場での競争力回復を狙った大型案件だ。CVCの資本と経営手腕を得て、「ギャツビー」に続く新たなヒットブランドを生み出せるかが注目される。TOB成立後は上場廃止となり、同社は新たなステージに進むことになる。