BUSINESS NEWS
  • share with weibo
  • share with LINE
  • share with mail

「グッチ」「シャネル」が年商1兆円時代を迎えて ソニア・リキエル社廃業が暗示するデザイナーブランドの危機

Aug 1, 2019.橋本雅彦Tokyo, JP
VIEW289
  • share with weibo
  • share with LINE
  • share with mail
Photo by Derek Hudson

売りに出されていたソニア・リキエル社に、買い手がつかず、同社は解散する。「ソニア リキエル(Sonia Rykiel)」ブランドの1980年代の飛ぶ鳥を落とす勢いを知る者ならば、全く信じられない事態である。1980年代、日本では、西武セゾングループ傘下のエルビスが輸入・販売を行っていたが、「ジョルジオ・アルマーニ(Giorgio Armani)」が同社を抜けて日本法人へ移管した後、同社の大黒柱になって、軽く年商100億円は日本だけで売り上げていた。

ソニアはニットの女王と呼ばれた。ニットで「シャネル(Chanel)」に匹敵するスタイルを作り上げたという評価があった。デザイナーとしても一本筋が通っていて、ソニア、アニエスべー(agnès b)ことアニエス・トゥルーブル(Agnes Troublé)、川久保玲の3人は反骨のデザイナーとして一括りにできるような独特な存在感を持っていたデザイナーたちだった。

フランス政府から、芸術文化勲章をもらい(1983年)、「ソニアリキエル通り」という通りがパリ市内に出来ても(2018年)、ブランドそのものが消滅してしまっては、ソニア・リキエルも浮かばれまい。「ファッションは文化」だといくらフランス政府が叫ぼうがこんなものである。最近では「ランバン(Lanvin)」「カルヴェン(Carven)」といったブランドが中国資本に買われていたから、ソニアも同様な動きになるのではないかと見ていたが、そうはならなかった。何故だろう?「ランバン」や「カルヴェン」が「ブランド」になっていたのに対して、「ソニア リキエル」は創業デザイナーが亡くなったのにもかかわらず、いまだにデザイナーブランドであったからではないのだろうか。例外もあるが、創業デザイナーが死去してそのDNAが上手く移植されて、「ブランド」(そのほとんどはラグジュアリーブランド)になるのであるが、「ソニア リキエル」の場合は、どうもその移植に失敗したようだ。ラグジュアリーブランドになり損ねてしまったのだ。

娘のナタリーが悪いのか、はたまたナタリーと結婚していた(後に離婚)ブラウンズ・ファミリーのシモン・バースタイン(Simon Bernstein)が悪いのか、それは分からないが、とにかくこういう個性的なデザイナーブランドはDNA移植が難しいのだ。

「ラルフ・ローレン(Ralph Lauren)」や「アルマーニ」のビジネスでそんなことは起きないけれども、ソニアクラスのブランドでは往々にして起こりうるのだろう。やはり、ブランドが壊れてしまわないうちに大手コングロマリットの傘下に入ってしまうのが得策だということになってしまうのか。彼らは百発百中ではないけれども、そのDNA移植のノウハウを持っていることは間違いない。

それにしても、創業デザイナーのソニアが亡くなったのが2016年8月25日。まだ3年もたたないうちに、手も付けられないほどに赤字が積み重なって、再生不可のレベルまで追いつめられるものなのだろうか。たしかにソニアが生きていた時代から同社の不振は始まってはいたけれども、何度かのリストラを経て、昨年2018年12月のソニア・リキエル社の業績は売上高3500万ユーロ(約42億円*)で純損失が3000万ユーロ(約36億円*)。これは企業の体をなしていない。買い手がつかないのも無理はない決算だ。最高経営責任者を6年と務め昨年7月退社したエリック・ランゴン(Eric Langon)やクリエイティブ・ディレクターのジュリー・ドゥ・リブラン(Julie de Libran、2014年5月に就任し今年3月退社)の責任なのだろうか。どうもそうではなさそうである。

その恐ろしい答えは、ブランドコングロマリットやファンドの傘下以外のデザイナーブランドは、この時代で生存するのは至難の業になっているということだろう。他人の資本を入れずに、オウンファイナンスしているデザイナーブランドで上手く回っている存在というのを探すのが本当に難しくなっている。これは、ファッションの危機以外の何物でもない。デザイナーブランドは、まさしくファッションというものの本質だからである。「ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)」や「グッチ(Gucci)」が1兆円ブランドになる時代であるが、考えてみれば、創業者のルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)は鞄職人だし、グッチオ・グッチ(Guccio Gucci)はロンドンのホテルのドアマンをしながら「ラグジュアリー」の本質を会得した人物であって、両人ともデザイナーではない。「シャネル」も1兆円ブランドらしいが、もちろん創業者のココ・シャネル(Coco Chanel)はデザイナー中のデザイナーだが、もうこれをデザイナーブランドという人はいないだろう。なにかファッションビジネスがあらぬ方向に向かっているようで、ちょっと心配になってくる。行き詰まるデザイナー企業がこれからも後を絶たないのではないだろうか。

*1ユーロ=120.57円換算(8月1日時点)

READ MORE