東京都は、社会的に問題になっているカスタマーハラスメント(以下、カスハラ)を防止することを目的にした条例の制定に向けて、素案をまとめた。カスハラとは、いわゆる悪質なクレーマー客による、店頭スタッフらへの暴行や暴言、不当な要求といった著しい迷惑行為を指す。今回まとめられたカスハラ防止案は年内に東京都議会への提出を目指しており、制定されれば全国で初となる。
カスハラをめぐっては、流通業界や小売業界などでもガイドラインや対策マニュアルなどの作成が進められている。エッセンシャルワーカーに対する被害が多いのもカスハラの特徴で、国内最大の産業別労働組合のUAゼンセンも対策に取り組んでおり、今年6月には組合員を対象にした調査結果を公表している。
調査結果によると、直近の2年以内に46.8%の組合員が、暴言や威嚇、長時間の拘束、セクハラ行為などのカスハラ被害にあっていることがわかる。さらに、「歯を食いしばれと言われ、殴ろうとしたり、車で轢こうとしてきた」、「 女のくせにと暴言を吐かれ、後日木刀を持って再来店され、非常に恐怖を覚えた」など、実際に起きたカスハラ事例も報告されている。
こうした事例だけではなく、2017年には自称ユーチューバーがヤマト運輸の営業所にチェーンソーを持ち込んだ上、従業員を脅し逮捕される事件が起きており、2013年には主婦が「しまむら」の苗穂店で店頭スタッフを土下座させて謝罪させた上、その様子を写真に撮りインターネット上で公開し強要罪で逮捕される事件も起きている。
年間で約2億人が来店するしまむらグループも、カスハラに関するガイドラインを制定したばかりだ。カスハラに該当する手段・態様を9項目挙げており、これらの定義に該当する悪質行為があったと判断した場合には、取引の停止や店舗などへの出入りを断ることがあるとし、徹底して対処していく意思を表明している。
消費者側のモラルを啓蒙していきながら、従業員にとって安心で安全な職場環境の整備は急務だ。