ところで太く長いバギーパンツといえば、1970年代に大流行したものだ。プラットフォームシューズにワイドなバギーのスタイルの底には、反戦のマインドがあった。その時代から20年後のラフ・シモンズ(Raf Simons)などによるワイドシルエットの変遷を経て、これまでにない新しいバギースタイルがジョナサンの手で登場したのだ。
ランウェイを歩く姿を見ていると、その新鮮さにわくわくするが、同時に刺激的というよりも、流れるような自然なルックに感動する。春夏にしてはトーンを抑えた色調からは、静けさや優しさも感じられる。ややカラフルなバルキーニットなどがあるものの、レッド、イエローなどの色調も彩度が微妙に抑えられて鮮やか過ぎない。
これはやはり、声高には言わないが「今は世界的に戦時下である」という認識の表れだろうか?ダミエとカモフラージュ柄をミックスした『ダモフラージュ』を発表し、フィナーレにもそのスーツを身に着け登場した、「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」のファレル・ウイリアムス(pharrell williams)は柄で、そしてジョナサンはシルエットと色で同じ現代を表現した、とは言えないか?
同時に、70年代グラムとは違い、ギラギラではなくひそやかな輝きを見せる今回の「ロエベ」のクリスタルからは、何か「希望の光」のようなものが放たれているようにも思うのだが?
ところで、一般のメンズファッションにコレクションのトレンドが反映されるには、かなりの時間が費やされることが多い。例えば現在、日本の街を行く男性のパンツの極端ともいえるほどのスリムさは、エディ・スリマン(Hedi Slimane)が2000年代初頭に発表したものが、ついに末端まで浸透した、ということの証明でもある。とすると、これから先はルーズなパンツの時代がやって来るのかも。将来、今回の「ロエベ」の傑作を思い出し、「あれが発端だった」と思うかもしれない。
ところで「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」もゆとりのあるパンツや光素材を多く発表した一人だ。夕焼け色のオレンジや大地のブラウン、深いネイビー、そこにゴールドの光が差し込む。究極の男のエレガンスとはこれかと、懐かしいような胸が締め付けられるような感覚を覚える見事なコレクションだ。
そして王道ながら必ずひねりを見せる「ポール スミス(Paul Smith)」は、自身のアーカイブピースをヒントに『THE SUIT (But Different)』と銘打ち、軽やかな素材ですっきりと爽やかなセットアップを見せた。無駄のないシルエット、選び抜いたグレーやベージュ、ポールらしいストライプニット、そしてポルカドットのタイや、ちらりと見えるカラフルな裏地まで、スーツスタイルを必ず楽しませてくれる手法は、いつ見ても新しい。ブラインドから差し込む光を表した「モーニングライトプリント」などの柄も面白い。
「エルメス(Hermes)」は透ける素材使いで新味を出し、「ケンゾー(KENZO)」はキュートでエレガントなウィメンズを多く見せ、アーティスティックディレクターNIGOの急速な成長を感じさせた。