ファッションECサイト「ゾゾタウン(ZOZO TOWN)」を運営するZOZOの2019年3月期決算が4月25日に発表された。売上高1184億500万円(前年比+20.3%)、営業利益256億5400万円(同ー21.5%)、経常利益257億1700万円(同ー21.4%)、当期純利益159億8500万円(同ー20.9%)。すでに第3四半期決算時に発表されていた減益予想通りの結果だった。その原因は、昨年発表したPB(プライベートブランド)「ZOZOスーツ」の不振に尽きる。同社は2020年3月期では売上高を14.9%増、利益を2018年3月期の水準まで回復させることを目標にしている。
2018年7月18日には最高値4875円をマークし、時価総額1兆円を軽く突破した同社だが、現在株価はその半分(5月9日現在2124円)以下の水準になってしまった。果たしてZOZOはどうなっていくのか?株価はどうなっていくのか?ファッション&アパレル関連株では最大の関心事だ。
PB「ZOZOスーツ」の失敗やすでに撤退したARIGATOサービスなどよりも、同社の今後について危惧を抱かせるのは、同社と同社創業社長の前澤友作氏の懐具合いだろう。ここに来てクローズアップされているのが、昨年5月に行われた2つの株式に関する取り引きである。すでにいくつかのブログなどで指摘されているが、簡潔にまとめてみた。
その第1の問題点が、5月23日に市場外で前澤社長がZOZOに売却した同社株600万株である。この取り引きは5月30日に関東財務局に大量保有の変更報告書として提出された。その価格は5月22日の株式市場の終値と同じ3845円。前澤社長が手にしたキャッシュは約230億円。これにより、前澤社長の同社株の保有比率は37.94%から36.01%に減少したが、まだまだダントツの大株主である。第2位の日本トラスティサービス信託銀行でも4.88%にすぎない。
それはいいとして、問題は、前澤社長に230億円を支払ったZOZOである。このために、ZOZOは短期借り入れを240億円行ったために、その自己資本比率が57.7%(2018年3月)から24.4%(2018年9月)まで下がってしまうという異常事態が生じている。
600万株は総株式数の1.93%に過ぎないのであるが、ZOZOにとっては230億円という多額の出費になっている。しかも、現在の株価2100円前後から見ると、3845円という売却株価は「うまく売ったな」という声も、「ひょっとしてインサイダー取り引きじゃないのか?」という批判も出ようというものである。
そして第2の問題点が、昨年5月31日に行われたストックオプションの導入。正確には株価条件付株式報酬型ストックオプションで、役員8人を対象にし、株価さえ上がれば「貰い得」の恩典である。その発行株数は最大で3100万株であるが、結局その90%である2790万株は前澤社長が権利を保有することになっている。その90%の権利を取得した前澤社長には、権利行使の条件として、時価総額5兆円などが課されており、権利行使は並大抵のことでは難しい。しかし、90%も独り占めするのはいかがなものか。
この2つの株式に関する取り引きはPB「ZOZOスーツ」の発表でZOZO人気が過熱し、株価が5000円に迫ろうかという5月に行われている。
しかし、その株価も今は2000円台のキープも難しい水準になってしまった。ハッキリ言って、株式市場の期待を一身に集めたスター銘柄のZOZOではない。普通の高収益会社になってしまった観がある。
しかも、前澤社長は保有するZOZO株1億1220万6600株(ストックオプション株2729万2200株は含まず)のうち8465万株を野村信託銀行(750万株)、三井住友銀行(850万株)、UBS銀行(4500万株)、みずほ銀行(1350万株)、りそな銀行(315万株)、Bank Julius Baer & Co. Ltd(700万株)の6行に担保として差し入れている(2018年10月30日)。担保として差し入れて現金を借りているのだろう。これは前澤社長の保有株の約75%にあたる。また株価が急落しているために担保として差し入れている株式も徐々に増加している。実際、今年2月12日には野村信託銀行に差し入れられたZOZO株は950万株に増加、三井住友銀行に差し入れられたZOZO株は1059万3300株に増加、UBS銀行に差し入れられたZOZO株は5366万4800株まで増加している。実に前澤社長が保有するZOZO株の約87%が、担保として銀行に差し入れられているのだ。これは明らかに異常事態だ。
こうして書いてくると、このまま株価の下落が進むと、前澤社長は差し入れている担保株を買い戻せなくなってしまうのではないかと思わずにはいられない。ダントツの筆頭株主と思われている前澤社長だが、考えようによっては、5366万4800株を担保として保有するスイス最大の銀行であるUBS銀行が鍵を握っていると言えなくもない。
もしファッションECサイトの独り勝ち企業ZOZOに綻びが生ずるとすれば、このあたりからということになりそうだ。カリスマ経営者前澤社長に対する世間一般の目、株式市場の目、銀行の目、そして社員の目がどうのように変化していくのか、注目せずにはいられない。