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創業一族がクリエーションから退場した「エトロ」はラグジュアリーブランドに変身できるのか?

May 27, 2022.三浦彰Tokyo, JP
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「エトロ」のバーチャル・ポップアップストア

「エトロ(ETRO)」の新クリエイティブディレクターに、マルコ・デ・ヴィンチェンツォ(Marco De Vincenzo)が就任した(既報)。これは、2021年7月にLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)系の投資会社Lキャタルトンがエトロ社の株式の60%を約650億円で取得(エトロ社保有する不動産や直営店舗は取引の対象外)して、経営権を得たことに端を発する。

ヴィンチェンツォの就任で、これまで「エトロ」ブランドのウィメンズ、メンズ、ホームコレクションを手掛けていた長女ヴェロニカ・エトロ(Veronica Etro)、次男キーン・エトロ(Kean Etro)、長男ヤコポ・エトロ(Jacopo Etro)の創業ファミリーは退任するが、引き続きLキャタルトンと協力し、ブランド戦略の発展に尽力するという。

もちろん、このファミリーの3人には、「お引きとりいただく」ということである。この3人に任せておいては、この有力な「ラグジュアリーブランド予備軍」である「エトロ」がダメになってしまうという判断がLキャタルトンから下されたということなのである。

「エトロ」は1968年にこの3人の父であるジンモ・エトロ(Gimmo Etro)によって創業されたテキスタイルメーカーだった。1981年には、カシミール紋様を使った生地を「ペイズリー」と名付けて、様々なホームファブリックに用いて話題になった。さらに1980年代にはショール、ネクタイと商品の幅が広がり、特に大判のショールは大ヒットした。加えて、ペイズリー柄のハンドバッグ(1984年)も登場した。

これは、バッグにブランドロゴを用いないハンドバッグとして注目された。「ディスクリート・ラグジュアリー」(ブランドロゴによって主張しない謙虚な高級品)と表現されることもあった。当然、プレタ(ファッション)への進出が課題になった、1996年にキーンが初のウィメンズコレクションをミラノ・コレクションで発表。1997年にはキーンによるメンズ、ウィメンズコレクションがミラノ・コレクションで発表。2000年には、ウィメンズコレクションはヴェロニカが担当するようになった。

しかし2人のクリエイターとしての個性が前面に出ることになり、ブランドはモード色を強めていわゆるラグジュアリーブランドの路線から大きくはずれてしまうことになり、規模的な拡大もスローダウンしてしまった。

そこにLキャタルトンが注目して、これを「正常」な形に戻そうとしているのが、昨年の買収そして今回のヴィンチェンツォの起用なのだ。

ラグジュアリーブランドとは、簡単に言えば、創業デザイナーの死去によって、その精選されたDNAが、クリエイティブディレクターによって現代に甦ることで成立するものである。「エトロ」にはその資格は十分にあるがラグジュアリーブランドと呼ぶのはためらわれる。創業ファミリーが揃って退場した「エトロ」が真のラグジュアリーブランドになるかどうかはクリエイティブディレクターのヴィンチェンツォにかかっていると言っていいだろう。

LVMHは、やはり「ロロ・ピアーナ(Loro Piana)」という素材メーカーからスタートしたラグジュアリーブランドを2013年に約2600億円でその80%の株取得で買収している。そのノウハウがあるはずで、どうすればいいのかはよく知っているはず。今後の動きに注目したい。

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