村田昭彦(以下村田):2020年の暮れから今年の初めごろにリブランディングの内容を固めていきましたが、それ以前から構想はしていました。Tシャツブランドから脱却する必要があることを感じていましたから、ライフスタイル領域でどういったカテゴリーが必要かを考えていました。
セブツー:どのような理由でリブランディングが必要だと考えましたか。
村田:Tシャツブランドとは謳っていなくても、Tシャツを扱うブランドは世の中に数多くあります。そういったなかで、我々にしか提供できない価値に特化していく必要があると考えました。もともと「グラニフ」は「Tシャツ×グラフィック」「グラフィック×アパレル」の組み合わせで商品を展開してきましたが、基軸はグラフィックにあると私は捉えました。実際にお客さまへのインタビューや消費者のインサイトから、Tシャツが欲しいというより「グラニフ」が提供するグラフィックそのものに共感いただいていることがわかりました。グラフィックを通じて得られる高揚感や、そこから生まれる人とのコミュニケーションや、カルチャーの共有といったことに満足感を得ていたわけです。グラフィックというと広告などのスチール媒体や商品のパッケージがメインで、いわゆるB to Bの世界で使われてきました。それに対して、一般の消費者や生活者向けのB to Cの領域でグラフィックに特化しているブランドは世の中にないと思いました。であれば、我々の一番の強みであり、他社がやっていない「グラフィック」を主軸にしたリブランディングを推し進めることにしました。
セブツー:クリエイティブにおける戦略はどのように描いていますか。
村田:多様な価値観を持つ生活者がたくさんいるので、多様なカルチャーを扱っていることが重要だと思っています。そのため、漫画やアニメのキャラクターもあれば、ファインアートまで扱っています。どちらが優れているということではありませんし、多様な価値観を持つ生活者のために選択肢を幅の広さを持ってしっかり提供していくことが私たちのクリエイティブで重要だと捉えています。現在、インハウスで8名のグラフィックデザイナーが在籍しています。彼らが新たなグラフィックを生み出すこともありますし、アートディレクターの役割として外部の有力なクリエイティブソースを持つ方たちとグラフィックを開発することもあります。インハウスのグラフィックデザイナーは、価値の源泉だと思っていますから非常に重要なメンバーです。それぞれに特徴があって、多様性を持ったメンバーを集めていかなければならないので、現在も少しずつ採用しています。
セブツー:ブランドディレクターに勝部健太郎氏が就任しました。リブランディングではどのような役割を担いましたか。
村田:一言で言えば、ブランディング全般のディレクションを担う責任者です。今回私から直接コンタクトしてオファーしました。彼は常に新しい発想でものごとを生み出すタイプで、以前から信頼していました。顧客へ提供する価値の向上やブランドに対する信頼や共感の醸成、クリエイティブのコントロール、そういったものを通じて中長期的な視点でブランド価値を向上させるためのブランド戦略を担ってもらいます。強いブランド、になるために、そして新しい市場を切り開いていくためにはブランドの価値を高めることが重要です。そのためにはブランド全体をしっかりとコントロールしていかなくてはいけないと思います。
セブツー:5年後に現在の売上高の3倍の300億円を目標に掲げています。新しい市場はどのように想定していますか。
村田:今のところはライフスタイル領域全般を想定しています。Tシャツからスタートしてアパレルまで広げていきましたが、アパレルに近しい領域としてバッグやシューズの服飾雑貨まで計画しています。今後はさらに広げていきます。その場合、ビューティや食かもしれないですし、スポーツやアウトドアかもしれません。我々としては商品自体をキャンバスと呼んでいて一種の媒体だと思っています。そういった意味では我々にとって市場は無限にあると思っています。
セブツー:どの領域やカテゴリーが市場として一番有望とみていますか。
村田:この市場が大きいから、あるいは伸びているからというよりも、可能性のあるところにトライしていき、お客さまから高い評価を得られたところで伸ばしていくという手法を考えています。例えば、アウトドアの市場が好調だからそこを絶対やりたいということではなく、我々のグラフィックを使って領域を広げていく中で、お客さまから「あると嬉しい」という反応を得られたらそこをしっかりと深掘りしていくということです。
セブツー:現在、「グラニフ」は121店舗を展開しています。ECストアとのバランスについてはどう考えていますか。
村田:お客さまにとって商品の手の取りやすさや買いやすさ、いわゆるフィジカル・アベイラビリティの観点からいうと、オンライン、オフラインの両チャネルとも必要です。それを前提として、あとは生活者の消費行動を見ながらアジャストしていくという考えです。とはいえ、ある程度売り上げを予測しながら対応していかなければいけないので、オンライン50%、オフライン50%ぐらいが適切なバランスではないかと思っています。それから、もう一点。オンラインに関しては利便性を提供していくことが一番重要で、オフラインについてはオンラインで得られない深いブランド体験を提供することが基本な考え方です。特に昨今、D to Cブランドが増えてきましたが、やはりオンラインだけではブランドは構築できません。ブランディングしていく上で、オフラインのブランド体験は欠かせません。そういった理由で、オフラインのリアル店舗は一定規模、必要だと考えています。
セブツー:リアル店舗がショールーム化している状況についてはどのように見ていますか。
村田:商業施設にお金が落ちないと彼らの売り上げが減ってしまうので、そこだけ考えると問題かもしれません。ただ、私は一種の顧客接点だと思っていますので、オンラインもオフラインもお客さまが我々の情報や商品に触れることで、商品やブランドの理解を深めていただければ、最終的にどこで決済するかはあまり関係ないと思っています。ショールーム化しようが、お客さまとの接点が保てて良い体験が提供できればなんの問題もないと思います。
セブツー:日本以外のマーケットで展開する考えはありますか。
村田:リブランディングのネクストステップとして、グローバル展開をやらないと生き残れないと考えています。過去には台湾やドバイなどいろいろな国で現地パートナーと展開していました。現在はオーストラリアで現地パートナーが2店舗を展開しているだけですが、過去の結果を見るとどこの国でも売れていました。私もファッションビジネスの世界は長いので、海外展開の大変さは理解しています。ただ、我々の生み出すグラフィックは一種のビジュアルコミュニケーションであり、パッと見た時の直感的な感性で外国人にも伝わりやすい。今はインバウンドがなくなりましたが、かつては全体の売り上げで10%ほど、原宿店は50%でした。それくらい海外の人たちが共感してくれていました。今はリブランディングしたばかりですが、タイミングを見て確実に海外展開はしていくつもりです。
セブツー:長年、ブランドビジネスに携わってきましたが、その魅力についてはどのように感じていますか。
村田:ファッションに限らずですが、お客さまにこだわって価値を創造し続けることで強いブランドが築けるということがブランドビジネスの魅力だと感じます。そこに共感するお客さまやファンが生まれることは、夢があります。売上予算が達成したことより、「あのブランド知っているよ」「グラニフが好きだ」という人が増えた方が達成感や充実度が高いと思います。当社のスタッフには、そういったことを楽しみながら仕事をして欲しいと思っています。
グラニフは歴史としては20年ありますが、株主も変わり会社の方針も変わり、やっとスタートラインに立ったイメージでいます。小さい存在ではありますが高い志や誇りを持って仕事をしていきたいと思っていますし、新しい目標に向かって挑戦し続けていきたい。そういったことに共感いただける人はぜひグラニフで一緒に働いて欲しいと思います。