撮影:川澄・小林研二写真事務所
この「MA5」の開発プロジェクトを全面的にマネジメントしたのが、世界最大の事業用不動産サービス会社の日本法人シービーアールイー株式会社(以下、CBRE)だ。CBREは日本を始め、中国や韓国、欧米の企業をクライアントに持ち、国際的な人材が集まった不動産関連のプロフェッショナル集団だ。事業領域は不動産の売買・賃貸の仲介サービスに限らず、不動産の戦略的コンサルティングや投資マネジメントなど多岐に渡っており、不動産売買に関しては毎年7,000億円規模の取扱実績を誇っている。
「MA5」の開発プロジェクトは、CBREのプロジェクトマネジメントの柳川具之・シニアディレクター、孫可歆・シニアプロジェクトマネージャー、アドバイザー&トランザクションサービスの原田悠士・アソシエイトディレクターの3人が主軸となり手掛けた。「MA5は商業施設にありがちな単なるボックスではない」と、3人は口を揃えて語る。
柳川具之氏は、「MA5」の一番の特徴として外観の意匠性を上げる。「表に向けた賑やかさと静観な佇まいとが共存する建物になったと思います。アートを意識させるファサードや西側のデザインパネルもMA5の意匠性を高めています。スケール感があり、見る角度によっても表情を変え、表参道にふさわしい新しいランドマークになったのではないでしょうか。槇文彦さんが設計を手掛けたスパイラルビルに隣接しているため、建築デザイナーも外観の意匠性についてはかなり気合が入っていました」と説明する。
外観の意匠性にこだわりはしたが、いたずらに目立たせることは一切考えなかったと孫可歆氏はいう。「商業地と住宅地が共存しているのが表参道です。表参道という街のデザインに沿った建物にすべきという考えは、始めからオーナーとも意見が一致していました。この街が求めている外観とMA5のオフィスとしての機能も融合しているべきです。平日も週末も表参道に通い、ここで働く人や生活する人を想像しながらコンセプトやパースを考えました。MA5はそういった表参道らしさを表現できたと思います」。
青山通りに面した「MA5」の店舗区画もまた、表参道という街の印象を左右する重要なスペースだ。現在、リーシングの交渉を進めている原田悠士氏が話を続ける。「MA5は、表参道駅の地上出入口の目の前のロケーションで、このエリアの回遊の起点になる場所です。MA5ができたことで、表参道の人の流れが変わっていくかもしれません。建物には人を導いたり引き寄せたりする機能があり、それこそまさにランドマークの役割だと思います。1〜2階に入居する店舗によってもMA5は表情が変わっていくでしょう」。
さらに原田氏は、「これからの店舗は、商品を販売するだけではなく、情報の発信拠点にもなりえるため、青山通りからの見え方にもこだわりました。ファッションやジュエラー、あるいはショールームやスタジオなどさまざまな業種に対応できるアクセシビリティに優れています。また、近々環境認証も取得する予定です。オフィス棟のすべての物件には開放的なテラスがあり、環境に対する意識も建物で表現できたのではないでしょうか」と説明する。
不動産関連のプロフェッショナルであるCBREにとって、今回の「MA5」のプロジェクトチームは理想に近いスキームだったという。事業性の検証から参画し、設計や開発まで担い、さらに施工後の管理も含めてプロジェクト全体を遂行した。建物を通して表参道という街の発展にどのように寄与できるのか、100年後の表参道を思い描きながらのチャレンジだった。
「渋谷駅周辺の再開発が進んでいますが、遠い未来は渋谷と表参道はひとつの街として融合し、このエリア一体がファッションやカルチャーの広大な中心地になっていくのではないでしょうか。そういったストーリーから新しいスタイルが生まれる可能性をこの街に感じています」と、孫氏はこの街の未来に思いを馳せながらプロジェクトを進めていったと話す。
遠い未来を見据えながら、「MA5」は表参道のランドマークとしてのみならず、ファッションやカルチャーの発信拠点として、街の発展をリードしていく存在であり続けるであろう。メインフロアのラインアップが出揃う来春以降も「MA5」に注目したい。