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「淀君」と呼ばれた名編集者・淀川美代子死す

Dec 17, 2021.三浦彰Tokyo, JP
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菅付雅信氏の著書「東京の編集」で取材を受ける淀川美代子氏(撮影: 宗野歩)

編集者の淀川美代子さんが11月10日に亡くなった。これが判明したのは死後1カ月を過ぎた12月10日ごろだから、1カ月間亡くなったことが伏せられていた。死亡日はなんとか確認できたが、生年月日がわからないので享年が書けない。頑なに自分の年齢、生年月日は明らかにしなかったようだ。それでもいろいろな情報から判断すると1944年生まれのようであるから、11月に亡くなっているので77年の人生。最後に手掛けた雑誌は古巣マガジンハウスの「クウネル」だった。編集長を委嘱され立て直しに2016年1月発売の3月号からあたっていた。

この「クウネル」編集部スタッフあてには、淀川さんと親しかった鉄尾周一同社常務取締役(「クウネル」の発行人でもある)から「ご心配やご迷惑をおかけしたくなかったので内緒にしていました。ときには嘘をつくことになってしまい申し訳なかったです。ひとり静かに、が私の願いだったので、最後のわがままとお許し下さい。ときどき思い出して下されば…と。また淀川さんのご意志で、散骨まで済ませて1カ月経つまで誰にも言わないでください、というメッセージを預かっていました」というメッセージが送られていたという。

淀川さんと言えば、映画評論家の故淀川長治氏の姪であることが知られているが、松竹映配を経てマガジンハウスの「an・an」でアルバイトとして働き始めた後正社員になり「an・an」編集部で勤務。その後淀川さんは1985年に「Olive」の3代目編集長に抜擢された。「Olive」少女旋風を巻き起こした後、1988年から「an・an」の編集長として最盛期80万部の発行部数を記録している。さらに1998年から「GINZA」の編集長に転じて同誌の立て直しにあたった。2006年には同誌エグゼグティブアドバイザー職に就いて、2010年にマガジンハウスを退社している。

マガジンハウスでは、淀川さんに社長就任を打診したというが、ニベもなく断られたという。社内では、尊敬されかつ恐れられ生きる伝説のような存在だった。実績はいうまでもないがそのセンスや大胆な発想は数々の名編集者を輩出したマガジンハウス歴代の編集者の中でも五指に数えられる存在だった。ついたアダ名は「淀君」(よどぎみ)。決して温和な性格ではなかった。好き嫌いのハッキリした、ダメなものはダメ、嫌いは嫌いな女性だった。だから一度嫌われると「ああ、私は編集長にはなれないんだ」と優秀な編集者が挫折したと言われるほど。

マガジンハウス退社後は、バルス(現フランフラン)が2012年に創刊したインテリア雑誌の「MAISHA(マイシャ)」で2015年の休刊まで編集長を務め、2016年からは「クウネル」のリニューアル・立て直しにあたっていた。

淀川さんは大編集者であるのに異論はないが、マガジンハウス時代には新雑誌を創刊したことはなかった。中継ぎ・リリーフが専門だったが、創刊に当たった「MAISHA」はあえなく3年で休刊してしまった。もう淀川さんの神通力も現在の雑誌不況では通じなくなっていると言われたものである。

淀川さんが編集長を務めた最後の雑誌は11月20日発売の「クウネル」2022年1月号(奇数月20日発売)ということになる。「本と映画があれば人生は楽しい!」が特集タイトル。なんと叔父淀川長治が愛する永遠の名画のコーナーもあり、貴重な直筆メモが公開されている。「美代子ちゃん、疲れたでしょう。もう十分雑誌の仕事はしたんだから、サヨナラ、サヨナラして、叔父さんのところにいらっしゃい」と淀川長治氏が言っているように読めるのは私だけだろうか。

ところで、淀川さんの死去について問い合わせをするとマガジンハウスでは「故人のご意志を尊重して当社から特に発表する予定はございません」という回答。これだけの貢献をしたのにもかかわらず、また1980年代、1990年代の雑誌文化を代表する人物であるにもかかわらず、どうも「お別れの会」を催す意向もないようなのである。とてもそれどころではないご様子である。雑誌編集を志す青年から、雑誌のオリンポスと崇められたその名もマガジンハウスとしてはこの名編集者の死をやりすごそうとするこのムードはいかがなものであろうか。

そんなことだから、「付録をつけたら雑誌なんて簡単に売れる」なんていう出版社にコテンパンにやられてしまったのではないか。

それにしても、「GQジャパン」の鈴木正文編集長、「VOGUEジャパン」の渡辺三津子編集長が今年一杯で退任し、「ハーパースバザー」の塚本香編集長も退任、そして淀川美代子さんの死と、ひとつの時代が終わりつつあるのを同じ時代をファッションと活字とともに生きて来た身としては痛感せざるを得ない年の瀬である。

稀代の名編集者の死に合掌したい。

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