2020年のオリンピック・パラリンピックに向けて、現在東京都心各地で、再開発が行われている。もっとも耳に新しいのは3月29日に開業した「東京ミッドタウン日比谷」ではないだろうか。4、5階はかつて「映画の街」と呼ばれた日比谷の魅力を継いだ、計13スクリーンを持つシネマコンプレックス、地下1階は食品フロア、1~3階にはファッションブランドやレストランなどさまざまなテナントが満遍なく誘致されている。
この「東京ミッドタウン日比谷」が我々を唖然とさせたのはその「商業フロアの展望」だ。同施設が掲げた、初年度の売り上げ目標は130億円と、非常に低く、実際に売り場面積は非常に少ない。1~3階の中心部には大きな吹き抜けが設けられ、さらに1階には広々としたレクサスのショールーム、3階には、有隣堂とクリエイティブディレクターの南貴之がタッグを組んだ新業態の「HIBIYA CENTRAL MARKET」が200坪近くを占め、居酒屋等の飲食店や雑貨屋、本屋が立ち並んでいる。六本木の東京ミッドタウンを知る我々にとっては、そのギャップに驚かずにはいられなかった。
上記のテナント計画から察しがつくかと思うが、東京ミッドタウン日比谷の商業フロアは、観光客のことを中心に設計されているのではなく、10~35階を利用する1万人以上のオフィスワーカーの充実した環境、生活の便を最優先した造りを想定しているのだ。駅直結という立地、日比谷公園を一望できる魅力的なパークビューをはじめ、フィットネスやシャワールームの設置など、多忙なオフィスワーカーには嬉しい条件が揃い、そんなワーキングライフの合間を彩る娯楽として、商業フロアが設計されているのだ。もちろん、東京ミッドタウン日比谷のオフィス棟は高い賃料にも関わらず、既にほぼ満室となっている。東京ミッドタウン日比谷は商業施設としては少し稀な例ではあるが、近年、このような複合型商業施設の乱立はとどまるところを知らない。GINZA SIX、NEWoManなど大きく世間を騒がせたものや、中にはオープン以降、既に売り上げに伸び悩んでいるものもちらほらあるという。
このような商業施設の大量供給が続く一方で、六本木ヒルズは2003年のオープン以来、新設の商業施設へ客数が流れることなく、4000万人という来館者数を現在もキープしている。この結果は正にインバウンド戦略の成功が大きく影響していると考えられ、実際に全体の売上高の約4分の1を占めているという。日本の小売業にとって、今決して切り離すことのできないインバウンド。六本木ヒルズ含め、新設の商業施設も2020年の東京オリンピックに向けて増加する外国人観光客の消費に期待していることは間違いないだろう。
では、一見順調とも見える東京の都心再開発だが、果たして東京オリンピックを終えた2020年以降は一体どのような施策が考えられるのだろうか。日本がいつまでもインバウンドを頼りにはしていられないことは自明である。
ここで、冒頭でも説明した東京ミッドタウン日比谷について再度考えてみる。同施設含め、近年オープンした多くの商業施設がオフィス併設型の高層ビルであり、各地では、商業施設と同様に、(もしくはそれ以上に)オフィススペースが増加している。
が、一方で仲介大手の三鬼商事が発表している4月時点での東京ビジネス地区(千代田・中央・港・新宿・渋谷区)のオフィス空室率は2.65%(前月比▼0.15%)と実は年々減少傾向にあり、それに応じオフィスの平均賃料は上昇している。現在の東京ビジネス地区の4月の平均募集賃料は1坪あたり1万9896円(前月比▲197円)だが、東京ミッドタウン日比谷においては約5〜7万円あたりだろうか。新しいオフィスの大量供給や働き方改革による、労働環境の向上意欲は非常に上昇しているのだ。
Googleの本社は、六本木ヒルズから現在建設中の渋谷ストリームへ移転するというし、コワーキングスペースを提供する、アメリカのWe Workは日本上陸以来どんどん拡大し、日比谷パークフロントも近日オープン予定だ。上記のオフィス需給を踏まえ、観光客ではなく、そこで長期的に生活する人々をメインターゲットに据えた東京ミッドタウン日比谷の展望は正となりうるのか。今後の動向に注目である。