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電通はなぜ「銀座」を売ったのか【いづも巳之助の一株コラム】

NEWDec 26, 2025.いづも巳之助Tokyo,JP
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電通グループは12月24日、東京・銀座7丁目の「電通銀座ビル」を売却し、2026年度に約300億円の譲渡益を見込むと発表した。老朽化した不動産を手放し、修繕費や固定資産税といった固定コストを削減。資金はキャピタルアロケーションの再設計に充てる。これは資金繰りではない。重たい資産をひとつ降ろす判断であり、広告代理店という業態から脱却しようとする決断だ。

不動産は帳簿上は資産だが、経営の現場では固定費と意思決定の重さを生む。税金や修繕が、使わなくても経営を縛るからね。電通グループは、あえて象徴的な銀座を選んで一気に売却した。段階的でも、部分売却でもない。この場所を売却するという行為そのものが、社内外へのメッセージになっている。

2025年通期の売上総利益は約1兆1800億円。調整後営業利益は約1612億円と、前年からは改善している。一方、売上高の伸びは、ほぼ横ばい。日本は約4%成長だが、海外はマイナス成長が続き、最終損益は赤字見通しだ。

今回の銀座ビル売却による約300億円の譲渡益は、営業損益や最終利益を一時的に押し上げる。ただし、調整後営業利益には、今回もこれからも反映されない。恒常的に稼ぐ力が強くなったわけではない。

現在の広告業界は、年々シュリンクしていく産業だ。テレビ、紙媒体、純広告の市場は縮小が続き、デジタルに移っても単価は下がる。かつてのように、枠を持っているだけで儲かる構造は、もう戻らない。だから電通は、広告が細っていく時間軸の中で、新しい儲け方を見つけなければならない。今回の銀座ビル売却は、その猶予時間を買うための一手でもある。

実は、電通が次に狙っているのは、広告枠の販売ではない。企業の新規事業や変革プロジェクトを、立ち上げ前から実行直前まで伴走する仕事だ。つまり、仮説を組み、実証し、社内外の調整を回して、意思決定まで運ぶプロセスを行う仕組みだ。広告、コンサル、SI(システム開発や業務設計を請け負う会社)の中間にある領域。言い換えれば、新事業代行アシスト業だ。

しかしここで巳之助は、電通は「自分の首を絞める構造も同時に背負う」と見立てる。新規事業への加担はたやすくない。巳之助は、新規事業の現場を長く見てきた。新しい事業は、立ち上げ期が一番「人手と知恵」を食う。だが、ビジネスモデルが固まり、数字が回り始めた瞬間、空気は変わる。もう自分たちでできる。外注コストを減らしたい。この判断は、どの会社でも起きる。

でも支援する側にとって、これは失敗ではない。だが、リピート収入にはなりにくい。広告代理業が持っていた、毎年同じ仕事が回ってくる構造とは、まったく違う世界なんだ。

足元の株価は3,000円前半。この水準は、かなり現実的だ。不動産売却というプラス、海外事業の不透明さ、日本事業の底堅さ、構造改革は、まだ途中だ。これらを全部足して引いた結果が、今の価格帯なんだ。短期で飛びつく局面ではない。拾うなら3,000円割れを待ちたい。一方で、3,500円を超えると期待が先行しやすい。

広告代理店は、リピート収入がえらく儲かる商売だった。一方で、これから電通が担おうとしている新事業代行アシスト業は、一発勝負になりやすい。あのスマートな電通マンが、少しずつ姿を消していくのではないか。そう思うと、正直、少し寂しい。

プロフィール:いづも巳之助
プライム上場企業元役員として、マーケ、デジタル事業、株式担当などを歴任。現在は、中小企業の営業部門取締役。15年前からムリをしない、のんびりとした分散投資を手がけ、保有株式30銘柄で、評価額約1億円。主に生活関連の流通株を得意とする。たまに神社仏閣への祈祷、占い、風水など神頼み!の方法で、保有株高騰を願うフツー感覚の個人投資家。

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