ミラノ・コレクションに続いて、パリコレ(パリ・ファッションウィーク)が9月25日に始まり、10月3日まで開催されている。そうした中で、ちょっとした事件が話題になっている。「バルマン(BALMAIN)」はショー開催の10日前に制作した服が輸送中にトラックごと強奪されるという事態に見舞われ、デザイナーのオリビエ・ルスタン(Olivier Rousteing)は9月17日に「ショーのための50点以上の服が強奪された」と自身インスタグラムで報告し、「私たちは諦めない」と付け加えた。9月27日午後8時からの「バルマン」のショーは無事終了し、大喝采を浴びたという。
こんな話は前代未聞だと言うが、ヨーロッパの主要都市の治安は著しいレベルで悪化している。貧富の格差が急速に拡大するなどさまざまな原因があるが、その最大要因はアフリカからの難民だ。すでにヨーロッパでは今年、アフリカからの難民が2015年の難民危機以降最も多い年間100万人に達する見通しなのである。100万人と簡単に言うが、ルクセンブルクの人口は62万人だからヨーロッパの小国2つ分に相当する数である。こうしたアフリカからの難民が現在最も大量に流入している国がイタリアだ。9月20日にはイタリア南部のランペドゥーサ島に2日間で7000人が到着した。ギニア、ブルキナファソ、コートジボワールなどサハラ砂漠より南のサブ・サハラからの難民がほとんどだという。
こうした地域でのクーデターの多発による難民の大量発生が背景にある。難民はサハラ砂漠を北上してチュニジアからヨーロッパに入っている。当然、砂漠でかなりの死者が出ているし、航海でも同様に相当数の溺死者が出たのだろう。そしてアフリ難民をヨーロッパに送るビジネスが犯罪組織の資金源になりつつある。今回も一番近いスペインやフランスではなく、イタリアの島に7000人の難民が流れ着いたことにいろいろな憶測が飛び交っている。
イタリア政府やEUは、各国に受け入れを要請しているが、フランス内相が9月19日に受け入れを拒否。フランスは現在ラグビーワールドカップ開催中で、すぐにパリコレ開催があったので受け入れを拒否したとも受け取れる。来年にはフランスはオリンピック開催も控えている。加えてドイツも難色示している。こうした受け入れ拒否に対して、イタリア国内では「難民のほとんどは旧フランス領の住人。フランス語を話せる難民もいるし、希望地はフランス。フランス政府の対応には怒りを感じる」との声が多い。
ミラノ、フィレンツェなどの大都市の駅にはアフリカ難民が屯して不穏な行動も見られるという。ミラノはとても、ファッションウィークの華やいだムードではなかったという。
昨年2月24日のロシアのウクライナ侵攻でEU諸国の経済はすでに疲弊しており、難民受け入れをめぐる各国間の不協和音が新たな火種になるのではという見方もある。さらにイギリスのEU離脱(2016年国民投票で離脱決定・2020年正式離脱)も未だにギクシャクした禍根を残している。
ヨーロッパの置かれている現在の難しい状況を、ファッションウィーク中にレポートしてみたが、「こんな状況の中でファッションショーなんかやっている場合か」ということにだけはなってほしくないと願わずにはいられない。