
イタリアを代表する世界的ファッションデザイナーで、「モードの帝王」と称されたジョルジオ・アルマーニ(Giorgio Armani)が9月4日、91歳で死去した。ブランド創業から半世紀にわたり、モード界に数々の革新をもたらしてきた人物の訃報に、世界のファッション関係者やセレブリティらから追悼の声が相次いでいる。
アルマーニは1934年、イタリア北部ピアチェンツァに生まれた。医師を志して大学に進学したが途中で退学し、写真家を目指した時期もあった。その後、ミラノの百貨店ラ・リナシェンテでウィンドウディスプレイを手掛けたことをきっかけにファッションの世界へ足を踏み入れる。1960年代にはメンズウェアのデザイナーとしてキャリアを積み、1975年に自身の名を冠したブランド「ジョルジオ・アルマーニ(Giorgio Armani)」を創設した。
ブランド設立当初から打ち出したのが、従来のスーツ概念を覆す「アンコンストラクテッドジャケット」だった。肩パッドを取り除き、体に自然に沿うよう仕立てたスタイルは、イタリアン・エレガンスの象徴となり、世界の男性たちのワードローブを刷新した。1980年代には映画『アメリカン・ジゴロ』で俳優リチャード・ギアに衣装を提供し、一躍国際的な注目を浴びる。シンプルで洗練されたスタイルはハリウッドやビジネス界でも高い支持を集め、「成功者の制服」とまで評された。
また、アルマーニは、女性の社会進出を象徴するファッションを提案したことでも知られる。男性的な要素を取り入れたテーラードスーツを女性に提案し、1980年代のキャリアウーマン像を形作った。華美な装飾に頼らず、シルエットや素材の美しさで魅せるスタイルは、ジェンダーの壁を超えた新しいエレガンスを提示した。
その後もブランドは「エンポリオ・アルマーニ(Emporio Armani)」「アルマーニ ジーンズ(Armani Jeans)」など幅広いラインを展開し、香水や家具、ホテル事業にまで拡大。ラグジュアリーブランドとしての地位を不動のものとした。
2021年には、イタリア共和国功労勲章の「カヴァリエーレ・ディ・グラン・クローチェ・デコラート・ディ・グラン・コルドーネ」を受勲。6段階ある中で最高位に置かれるこの勲章は受勲者の大半を大統領や大統領経験者が占めており、第2位に位置する「カヴァリエーレ・ディ・グラン・クローチェ」が実質的な最高位であると考えられている。その中で、民間人であるアルマーニがこれを受勲したことはイタリア国内でも大きな話題になった。
晩年も自らデザインやコレクションの指揮を執り続け、2020年のパンデミック時には医療機関に多額の寄付を行うなど社会貢献にも尽力した。ファッションを単なる衣服にとどめず、ライフスタイル全体を提案する姿勢は、多くの後進デザイナーに影響を与えてきた。
ジョルジオ・アルマーニの逝去は、一つの時代の終わりを象徴する出来事となった。だが、彼が築いた「シンプルさの中にある究極のエレガンス」という美学は、これからも世界中で受け継がれていくに違いない。