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流行に敏感?北朝鮮の意外なファッション事情

Oct 18, 2022.鴨下ひろみTokyo, JP
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金正恩総書記とその妻でファッションリーダーでもある李雪主氏

北朝鮮のファッション、と聞けば、「モノトーン」「人民服」「韓国のお古」という印象を抱く人も少なくないだろう。閉鎖国家といわれるだけに庶民の姿はなかなか伝わってこない。ただ、実際に北朝鮮の街を歩いてみると、意外に女性たちが流行に敏感である点に気づかされる。

■かつては無地、いまは多彩……ファーストレディーがファッションリーダー

首都・平壌(ピョンヤン)では様々な服装でオシャレを楽しむ女性たちに出会う。経済制裁を受けながらも、女性たちは多彩な色合いの服に身を包み、メークを楽しんでいる。

この国ではかつて、服は配給されていた。ツーピースの制服のような衣装で、色は無地だった。筆者が1990年代に、最初に北朝鮮に足を踏み入れた時、女性の正装はゴブラン織りの布地を使ったチマ・チョゴリだった。冬用のカーテンみたいだなと思ったのを覚えている。

それが時代の変化とともに大きく変わった。

最近は華やかなブラウスにタイトスカート、パンプスなど、おしゃれな装いが目につく。ロングヘアーには大きな髪飾りをつけたり、ポニーテールにしたり。ショートヘアも流行しているようだ。

北朝鮮の女性たちのファッションのお手本となっているのが、実は、金正恩(キム・ジョンウン)総書記の妻、李雪主(リ・ソルジュ)氏だ。

李雪主氏が表舞台に登場してから、ショートカットの女性が増えたようだ。馬息嶺(マシンリョン)スキー場や平壌の水遊び場など金正恩時代に作られた娯楽施設にある美容院にある髪型の見本は、ショートカットが真ん中の目立つところにあった。北朝鮮の流行の最先端という感じだ。

 

李雪主氏は金総書記の視察に同行する際、スーツやワンピースなど女性らしいファッションで登場する。ファーストレディーのファッションは常に注目されている。北朝鮮では李雪主氏のファッションを真似てショートカットにしたり、水玉柄のスカートが大流行したりしたとも言われている。

■オーダーメイドから、なんでもありの「自由市場」

ただ、北朝鮮のファッションの実情はほとんど知られていない。彼女たちは流行の服をどこで手にいれているのだろうか。

平壌の老舗デパート、第一百貨店。そこを訪ねると、売り場には流行のデザインを取り入れた洋服や靴が並び、女性たちが手に取って選んでいた。2010年代からは、中国から多くの衣料品が入るようになり、色や形も多様化している。

北朝鮮でも若い女性はファッションに敏感だ。店で既製品を買うだけではない。気に入ったデザインの洋服をオーダーメイドすることも少なくないという。

厚底サンダルやクラッチバッグなど、その時々の流行がいち早く入って来ていた。おそらく中国経由で仕入れたものだろう。

平壌にはオーダーメイドの専門洋服店が点在する。中でも「黎明(リョンミョン)通りの教員専門洋服店」は、若手の教員らが高い信頼を寄せる人気店だ。朝鮮総連機関紙「朝鮮新報」(2021年11月4日付電子版)によると、同店の製品は、体のラインを美しく見せ、体にフィットして動きやすいという。最近は明るい色彩で上品なファッションが好まれる傾向が強いという。

顧客の年齢や好みに応じて、150種あるサンプル品と多種多様な生地の中から、自分のイメージに近いものを選ぶ。顧客へのヒアリングに基づいてスタッフがオリジナルのデザインを提案するという。猛暑が続いた2021年は、新しくデザインしたノースリーブのワンピースが大人気だったそうだ。

筆者は2015年10月、羊角島ホテルの一角にある洋服店を訪ねたことがある。

室内にはスーツなど洋服の見本や完成品がずらり。なぜか日本の雑誌もあった。その本を手に取ると「レディブティック2013年12月号」と書かれていた。どこから持ち込まれたのか、日本のスタイルブックが数冊あり、その中から気に入ったデザインを選べるようになっていた。生地は持ち込みでもいいし、店の在庫から選ぶこともできる仕組みだ。若い女性が数人いて縫製や、仕上げのアイロンなどの作業にあたっていた。

オーダーメイドはあくまでも富裕層が対象だ。庶民はファッションアイテムを「チャンマダン」と呼ばれる「自由市場」で調達する。

北朝鮮ではかつて、食糧を中心にすべてのものが、国からの配給によってまかなわれていた。しかし、1990年代後半に大洪水のため全国に飢饉が広がり、配給体制が崩壊した。人々は食糧を自力で確保する必要に見舞われ、各地で闇市場が誕生した。それが「チャンマダン」だ。

この「チャンマダン」の様子は、韓流ドラマの代名詞になった「愛の不時着」でも描かれ、見た人に強い印象を与えた。ドラマでは、韓国の化粧品が半ば公然と売られているシーンが登場したり、西側のファッショントレンドを取り入れた服がさりげなく置かれていたりする。主人公の韓国の財閥令嬢が「この柄、ニューヨークのショーで見た気がする」と言ったりもしている。

■「愛の不時着」で再現された北朝鮮女性のファッション感覚

この「愛の不時着」では北朝鮮の庶民の生活、中でも女性たちの暮らしぶりがさまざまな角度から描かれている。筆者の訪朝経験からいえば、このドラマで描かれている北朝鮮の姿は、現地の様子をかなり詳細に再現したもののように思える。

韓国との境界にある北朝鮮の村に突然姿を現した韓国の財閥令嬢のユン・セリ(ソン・イェジン)に、北朝鮮側の女性たちは戸惑い、強く反発する。だが、その後、セリは彼女たちに溶け込む。そのきっかけがファッションだ。

大尉の妻で、村でも女帝的な存在の「ヨンエ同志」の誕生パーティに出席したユン・セリは、贈物の中の手製のワンピースに目を付ける。

セリ「これって流行の最先端じゃないですか。ニュートロ」

女性たち「ニュートロって何かしら?」

北朝鮮女性たちが“野暮ったい”と目もくれなかったワンピースが、セリのアレンジで“最先端のファッション”に様変わりした。セリは瞬く間に「ヨンエ同志」の心をつかみ、村の女性の輪に入ることに成功する———。

ちなみに「ニュートロ」とは韓国の造語で、ファッションなどでレトロなものを新たに楽しむ傾向を指す。

現実はもちろんドラマのようにはいかないが、北朝鮮女性たちが日々の暮らしの中で、美容と健康に気を使い、ファッションに関心が高いのは間違いない。

女性たちのファッションセンスだけ見れば、北朝鮮は西側諸国とそう大きく変わらない。政治や外交面でも、両者が融合する日は果たしてくるのだろうか。

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