名古屋市南区のJR笠寺駅。午後3時半、ここに到着した4両編成の列車から、女性たちが大挙して下車した。目指す先の日本ガイシアリーナまで、多くが高揚感を漂わせながら、急ぎ足になっていた。
ステージにほど近いアリーナ席で「AAA」を観覧した。この1時間ほど前からアーティストたちが次々に会場に到着し、レッドカーペットでの写真撮影に応じていた。会場に正面に掲げられた二つの大型スクリーンではその様子が放映され、スターたちの姿が映し出されるたびに、会場内では歓声がこだましていた。
新型コロナウイルスの影響で、ファンも迎えての「AAA」ライブステージは3年ぶり、日本では初の開催となる。これほど大規模の韓流ライブは私にとっても初体験だった。
日本ガイシ・スポーツプラザのホームページによると、ホールの収容人数はスタンド席とアリーナ席(フロアのスペース)を合わせて最大1万人。開演前にざっと見渡しても、通路以外に隙間は見当たらなかった。年齢層はまちまちだが、大半が女性のように思えた。多くがハングルで「推し」の名前を書いた手製のプラカードを持っていた。
「アジア・アーティスト・アワード」とは、アジアを拠点に活動しているアーティストや俳優の中で、この1年間の活動を最も高く評価された者に贈られる賞というのが主催者側の説明だ。「アジアを拠点」と言っても、ほとんどが韓国のアーティスト・俳優であり、実質的にはK-POPやK-映画・ドラマを対象としたものと言っていい。
◇K-POPの醍醐味
会場の照明が落とされると、客席のあちこちに蛍の光のように、ペンライトの白やブルーの灯りが浮かび上がる。ステージの向かって右側、アリーナ席の一部が仕切られ、そこに6つの丸テーブルが置かれてあった。それぞれに白い布に覆われた座椅子が添えられていた。
午後4時15分、オープニングステージが始まった。黒基調のカジュアルな衣装で男性9人が姿を現した。デビューわずか6日という多国籍男性グループの&TEAMだった。&TEAMはBTSやSEVENTEENなど人気アーティストのレーベルを保有するHYBEの日本本社HYBE LABELS JAPAN初のグローバルグループで、注目が集まった。体操競技を思わせるような高度なパフォーマンスを繰り広げる9人、その動きにシンクロする大音量の音楽と、ステージのバックスクリーンの映像、歓声を上げながら体を揺らすオーディエンス……。&TEAMのステージは一気に観客を引き込んでいった。
出演者のランナップを見る。
SEVENTEEN、THE BOYZ、Stray Kids、ITZY、TREASURE、IVE、Kep1er、LE SSERAFIM、NewJeans、PENTAGON、KARD、チェ・イェナ、NiziU、NMIXX、TEMPEST、キム・ソンホ、ソ・イングク、ファン・ミンヒョン、イ・ジェウク、カン・ダニエル……。K-POPシーンを代表するアーティストや俳優たちだ。韓流ファンには説明は不要なスターたちだ。
&TEAMのステージが終わる。すると、ステージ正面に、司会のイトゥク(SUPER JUNIOR)とチャン・ウォニョン(IVE)が姿を現した。このペアがMCを務めるのは2年連続。イトゥクに至っては7年続けての司会という。2人は受賞者を紹介する際、時折、日本語も交え、会場をわかせていた。韓国語を話す際には大型スクリーンに日本語が記されていた。
◇丁寧にお辞儀するスターたち
ステージ右下の丸テーブルの席は、授賞式に臨む俳優・アーティストが待機する場所だった。係員に案内されながらスターたちは入れ代わり立ち代わり、着席する。遠くから手を振るファンの姿を見つけると、それに応えるようにスターたちも手を振る。ファンを大事にする姿勢が徹底されているようだ。
驚いたのは先輩スターが入ってくると、既に着席していたグループがいちいち立ち上がって丁寧に挨拶することだ。韓国では年齢が1歳でも上なら年長者として敬う。韓国の芸能界におけるアーティスト同士の関係性を垣間見た気がした。どんなに若くても「公人」として高いモラルを求められ、そのように教育されているのだろう。
「AAA」には歌手・俳優部門で「大賞」「ベストアーティスト賞」「新人賞」などの賞が用意され、その数は合わせて30を超える。歌手部門は視聴者投票やデジタルチャート、CDの販売数、専門審査委員会の審査結果を総合して、俳優部門は地上波やケーブルテレビなどの作品を審査して、それぞれ受賞者を選ぶという方式という。1人で複数の賞を受ける例もあった。
今年の歌手、今年のアルバム、今年の歌など6部門からなる大賞受賞者には、いずれも今年、輝かしい活躍を遂げたSEVENTEEN、Stray Kids、IVE、NewJeans、イム・ヨンウンが選ばれた。
これだけの韓流スターたちが一堂に集まり、そのパフォーマンスが集中的に披露されるのは得難い機会だろう。何よりも驚かされるのは、その完成度の高さと層の厚さだ。「韓流」人気の背後にあるアーティストたちの汗と涙と日々の鍛錬に、心から拍手を送りたくなった。