小西:デザイナーなんだけど、今別の仕事もやっているんですよ。
三浦:そうなんだ。
小西:やっぱり百貨店が多かったからね。百貨店なんかとやっているとそもそも儲からないんだよね。やっぱり彼女は学生のときからロンドンに行って、凄く個性的なんだけど、僕とは違う。
三浦:セントマーチンでしたっけ?
小西:セントマーチン。その前は、多摩美大。
三浦:多摩美なの?
小西:多摩美出てからセントマ。だから基本はできている。でも百貨店とかそういう大きな売り場を持ってやっているとダメだね。どんどんどんどん個性がなくなって、売れるものを出しちゃうんだよね。百貨店も「売れ筋売れ筋」ってバイヤーがうるさく言っているんだよ。でもそんなこと言ったら、それこそそういう売れ筋ってネットビジネスが全然得意なわけだからさ。だからそういうものが今に至ったわけであって、そんなことはもう20年 30年前から変わらないんですよ。だからまあ、今ちょっとそれだけでは食べていけないので、 別の仕事もやっているんだけど、大したことないなあと思うね。やっぱり俺を越えられないんだなあ。昔は俺食わしてもらおうと思ったけどあてにしちゃダメだね。71なろうとしているけど 子供はあてにできないよ。自分でいくしかない。
三浦:子どもに食わせてもらっちゃいけませんよ。
小西:だからなんだかんだで、少しずつ少しずつ貯金ができちゃいました。
三浦:それはそれはおめでとうございます(笑)。
小西:でもただ僕の流儀は人を一切使わないことなんです。これぐらいになると秘書を二人くらい使ってやるんだけど、今オーダーメイドで洋服を作っているような人はショールームをみんな作るんだよね。で、カッコ良く、インポートの生地をいっぱい並べてみたりさ、スタッフがスリーピースのベスト着てメジャーを首にぶら下げてるみたいな。でも ああいうのダサいんだよ。ダメなんだよな。だから僕は自分のうちの半分をアトリエにしてその中でやるわけよ。ディスプレイもしないよ。だから僕に100万円のドレスを作ってもらおうっていらっしゃる方なんか、そら立派なところでさ、デヴィ夫人のオウチみたいなところで、ハーフでモデルの秘書とかアシスタントがいると思って来るでしょう。すると、犬がワンワンと迎えに行って、「あら、わんちゃんと先生、一人でいらっしゃるんですか?」って。「いや、僕はいつも一人ですよ」っていうと不思議そうな顔するんだよ。
三浦:アシスタントがいると思っているんだ。
小西:30分やっていると、「じゃあ休憩にいたしましょう。ちょっとお待ちくださいませ。」って、キッチンで用意してきて「これからドン小西のティータイムでございます」って言ってさ。 何時に誰が来るかわかっているから、あの奥さんだったら都ホテルでフルーツケーキを買っておいてとか、そういうことをやるわけだよ。それでコーヒー入れてあげる。すると「先生自らコーヒーなんか」「いやいや、もう趣味で、こういうの好きなんです」。
三浦:ちょっと、ちょっと一人芝居はそれぐらいにして下さい(笑)
小西:儲かってきて知名度があって、先生って言われると秘書を使ったり、「山田くん、ちょっとやっておいてね」みたいなそんなことがある。俺もそういう時期があったけど、それじゃ子供だね。僕は今ポリシー持って一人でやっている。まあ芸能の方は一人というわけにはいかない。マネージャー がいるけどね。なんかね、先日もオカダヤなんか行ったのよ。新宿の。
三浦:え、オカダヤ行くの?
小西:1m450円の裏地を買いにさ。学生の後ろにちゃんと並ぶのよ。で、それを「違うでしょ」って言われても、僕はじーっとその1m450円の裏地と、それとボタンを6個買うために並ぶわけよ。シングルが急にダブルになっちゃってね。それが20分30分レジを待って買うと、ポイントも貯まるし(笑)。いや本当にね、面白いですよ、そういうのは。
三浦:時間迫ってきました。最近話題になっている、コロナ禍で「ファッションは生活必需品か、不要不急のものか」っていう議論が話題になっています。ドンさんの見解をうかがわせて下さい。
小西:はっきり言いましょう。世の中はちょっと勘違いしていることがあって、「ファッション」「モード」とかって軽々しく使っちゃダメ。ファッションと衣料品は違うんですよ。
三浦:アパレルですね。
小西:全然違う。だから今の東京でやっているコレクションなんか見ても面白くないよ。なぜかっていうとね、クリエイションしてない。やっぱりファッションは時代を引っ張っていくものなんですよ。あるジャーナリストは「この新人は素晴らしい。時代の空気を持ってる」 なんて寝ぼけたことを言っている。時代にデザイナーが乗っかっちゃダメだろうって。
三浦:乗っちゃいけない?
小西:当たり前。ポストナウだよ。先を行かなきゃいけないっていうのはあるわけ。そんな能力もないのに一生懸命やってる。アパレルとかデザインとかは誰でもできるわけだよ。機械と生地屋があれば、縫製工場に指示の仕方が分からなきゃどっかから買ってきてさ、「これと同じの作って下さい」って出せば出来ちゃうから。そんな感じで今の東京のファッションシーンはときめくものがないね。俺みたいなプロ中のプロが見て、感動が何もないんだよ。育ててあげよう、いいとこ見つけようったって何もない。あれはひどいよ。
三浦:さっきおっしゃったけど、見過ぎなんですよ。ファッション誌とかね。
小西:能力ない人間は、もともとないんだよ能力が。オシマイだと思うよ。だから何も出てこないんだよ。確かにこの前の森永君だっけ?
三浦:「アンリアレイジ」ですね。
小西:僕とはちょっと違うけど考え方、組み立て方がなんか似ているなと思うんだな。そしたら彼のおじさんが僕の友達だったりしてね。
三浦:森永博志さんですね。
小西:編集やっていた人だよ。びっくりしちゃった。 まあそれはいいとして。やっぱり、何が言いたいかっていうと、ファッションっていうのは衣料品とは違うってこと。だから「ユニクロ」とかファストファッションは衣料品。
三浦:アパレルですね。
小西:「ユニクロ」が儲かるのはわかります。社会貢献しているんですよ。貧乏人が風邪ひかなくて済むでしょう。厚着しなくても寒い思いしなくていいじゃない。あれはね、儲かっていいですよ。柳井さんのところは社会貢献しているんですよ。本当にあんな安い値段で本当に簡単に寒さ暑さをしのげるってのは素晴らしい。だからホカロンなんかもそうだよ。ホカロンの会社なんて儲かっていいに決まってる。
三浦:「ユニクロ」は「ホカロン」と一緒ですか(笑)。
小西:ファッションと衣料品は違うんだよ。でそれをみんな一緒になってファッション業界のジャーナリストもアホだからファッションファッションなんて言って、もう銀座なんかハイブランドとファストファッションがごっちゃになっている。日本は棲み分けができないんだよ。
三浦:あれは衣料品とファッションごっちゃになっている。それとなんちゃってファッションってやつかな。そこをなんか一緒にしちゃっていますね。
小西:だからネットとかにもなんかリアルさが無いんだよね。満足しちゃっているね。作り手の気持ちが込められたものなら、びっくりするくらい高い金を出しても、騙されたと思っても買うんだよ。すると、何か得るものがあるのよ。僕だってあるアイテムを昔十何万円出して買ったけど、それ以来ずっとそれに影響を受けている。そんなこともあるんだよ。
(ドン小西対談連載はこれにて終了です。次回は編集者の岸田一郎氏が登場の予定です)