2023年春夏シーズンに向けたミラノ・コレクションに続くパリ・コレクションも10月4日に終了した。アフターコロナを見据えた動きが出て来るはずだと思ったが、デザイナー交代が行われ注目のコレクションだったのは、ミラノの「エトロ(ETRO)」「ミッソーニ(MISSONI)」だった。いずれもファミリーの一員がクリエイションの責任者という前時代的な体制を長い間続けて来たブランドだ。もう21世紀も22年を過ぎようというこの御時世にこうした体制ではビッグ・ラグジュアリーブランドの「オコボレ」をもらうことすら難しい。ブランド創業者から「血縁」ではなく、その「DNA」を吸収してそれを現代でも通用する商品にリヴァイブさせるのがクリエイティブ・ディレクターという存在なのだ。遅まきながら、そうしたことに両ブランドとも気付いたようだ。
ブランドにおける創業一族の統治というものは、株主、経営者、クリエイションという三つの分野があるが、最も望ましいのは、いうまでもなく三つの分野すべてで創業一族が退場することである。それが難しければ、経営とクリエイションの分野は有能な人物に任せるべきだろう。その点LVMH系の投資会社Lキャタルトンに60%のファミリー保有の株式を売却した「エトロ」は前時代的なブランド封建主義を捨て現代的なラグジュエリーブランドとしての体制を築いたということができるだろう。問題はその現代的な体制が消費者の賛同を得るかどうかにかかっている。
「ミッソーニ」の場合は、まだクリエイションと経営の一部の民主化が行われたばかりだ。この後きちんとファミリー色を払拭して現代的なラグジュアリーブランドへ歩んでいけるのかどうか。LVMHのような後立てがないと難しいのではないか。ラグジュアリーブランドの資格を持っていてもそれが生かせないまま消えていく有名ブランドはいくらでもあるのだ。
今回「サルバトーレ・フェラガモ(Salvatore Ferragamo)」は「フェラガモ(Ferragamo)」に名前を変えたが、すでに株、経営、クリエイションのファミリーからの分離は済ませているが、新デザイナーのマクシミリアン・デイヴィスによるファーストコレクションは微妙な出来栄えだ。
ファッション業界の名うての仕事師であるマルコ・ゴベッティが「バーバリー(Burberry)」のCEOを昨年末辞めて、最後は生まれ故郷のイタリアで働きたいと今年から「フェラガモ」にやってきた。まずブランド名を変えて、次は何をするのだろうか。
今回のミラノ・コレクションで、ほかに注目すべき動きというと、「バリー(Bally)」だろうか。ロサンゼルスのストリートブランドのデザイナーのルイージ・ピラセノエルをデザイナーに起用して20年ぶりにショー形式での発表を今回のミラノ・コレクションで行うなど意欲的だった。こういうリスキーなデザイナー起用は、ブランド内のデザインチームが優秀なら問題はないのだが、どう転ぶだろうか。
「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」をラグジュアリーブランド界の一大勢力にした中興の祖であるクリエイティブ・ディレクターのトーマス・マイヤーが在任17年を数えた2018年に退任した後の「ボッテガ・ヴェネタ」を立て直したとも言われていたクリエイティブ・ディレクターのダニエル・リーは2021年に去ってしまった。今回のその後任のマチュー・ブレイジーは今回2回目のシーズンだったが、悪くない。
そのダニエル・リーはなんとリッカルド・ティッシの後釜として「バーバリー」のクリエイティブ・ディレクターに就任するというビッグニュースがパリコレ期間中に飛び込んできた。
では、前任のリカルド・ティッシはどうなるのか?もしかして、2021年末で「バーバリー」を去り、現在「フェラガモ」CEOになったマルコ・ゴベッティを追ってティッシも「フェラガモ」へということなのか。「ジバンシィ(GIVENCHY)」そして「バーバリー」で黄金コンビを組んだゴベッティ&ティッシが「フェラガモ」でも実現ということになるとこれは大きな話題になる。
いやはやラグジュアリーの世界は奇々怪々だ。