
福井県を拠点に、合繊高密度織物の開発・生産を手掛ける第一織物が、6年ぶりとなる単独総合展を東京・原宿で開催した。会場はオープンと同時に仕入れ担当者やアパレル関係者でにぎわい、同社の新素材への関心の高さをうかがわせた。
第一織物は1948年創業。自社で企画から生産まで一貫して行う技術力を背景に、主力ブランド「ディクロス(DICROS)」を展開してきた。高密度に織り上げられた合繊素材は、撥水性や耐久性に優れながらも、しなやかで美しい表情を持つのが特徴だ。欧州のラグジュアリーブランドにも採用され、世界的に評価を得ている。近年はスポーツブランドの需要拡大も追い風となり、注目度はさらに高まっている。
今回の総合展では、高密度素材だけではなく、従来の技術を進化させた新しい素材もラインアップ。合繊とウールを組み合わせたハイブリッド素材など、異素材の融合による新しい生地や、かすりのような表面感や陰影感がある素材など、高機能と高級感を両立した素材を打ち出した。
第一織物は2020年に毛織物のトップメーカーであるニッケグループの傘下に入った。グループの開発力とネットワークを活用しながら、合繊分野での独自性をさらに磨いている。今回の展示会では、ニッケグループの知見を取り入れた新製品の共同開発成果も披露され、繊維業界全体のイノベーションに向けた姿勢を示した。
第一織物の中川浩孝社長は、「私たちの代表的なブランドであるディクロスは、リサイクル素材やバイオ由来の原料を活用し、フッ素フリーの撥水加工など、サステナブルな形でさらに進化しています。また、高密度の素材をもっとファッションに使っていただくために、さらに新しい素材も開発しました」と、語っている。
同社はすでにEコマースの仕組みも整えており、オンライン上で生地を確認・発注できるサービスを提供。現在600社以上が登録しており、地方発のメーカーでありながらグローバルに商圏を広げている。展示会とデジタルを掛け合わせた営業戦略は、繊維業界においても先進的な取り組みといえる。
繊維業界では近年、サステナビリティやトレーサビリティの確保が大きなテーマとなっている。海外ブランドが求める基準をクリアするためには、素材メーカーがどこまで環境対応を進められるかが鍵となる。第一織物が打ち出した「高密度×サステナブル」の素材は、まさにその解のひとつといえるだろう。
また、アスレジャーやアウトドア人気を背景に、ファッションと機能性の境界はますます曖昧になりつつある。第一織物が得意とする機能性を持つ高密度織物は、ラグジュアリーからスポーツまで幅広い領域での活用が期待される。
地方企業でありながら、世界のトップブランドと取引を重ね、独自の技術で市場を切り開いてきた第一織物。今回の展示会は、同社の次なる挑戦の出発点でもある。サステナブルな新素材とデジタルを組み合わせた戦略がどこまで浸透するのか、今後の展開に注目だ。