ダニエル・リー(Daniel Lee)の突然の退任により後任にマチュー・ブレイジー(Matthieu Blazy)が就任した。1984年、パリ生まれの彼は「ラフ・シモンズ(Raf Simons)」「セリーヌ(Celine)」「カルバン・クライン(Calvin Klein)」などで経験を積んだ。リーと同様にフィービー時代のセリーヌを支え、リーの下で先シーズンまでの「ボッテガ・ヴェネタ」に関わった人物だ。新コレクションは白いタンクトップとジーンズでスタートした。リセットするかのような潔いスタイルに期待が膨らむ。シグネチャーであるイントレチャートは誇張された大きな編み目から再び細やかになり、バッグやサイハイブーツなど多彩に使用した。ジーンズはしなやかなヌバックにデニムを転写したものだった。フレアスカートの裾からは大量のフリンジが揺れ、レザースカートのしなやかさを強調する美しさだった。クラフツマンシップへの探究心を突き詰めながら、ラグジュアリーを日常に落とし込んだ内容だ。ブランド内の昇格は何を意味するのかを察知し、前任者が大胆にモダナイズしたブランドを繊細な微調整で、自分流に染めていこうとするあたり、かなりのテクニシャンと思われる。まずは好調なスタートを切った。
■「アディダス(Adidas)」とのコラボレーションで“絶妙なグッチ”が再びミラノに君臨
時期をずらしての開催やハリウッドでの発表など、自由奔放ぶりは「グッチ」の作風そのものだが、久々に時期も場所もミラノ・コレクションに戻した。「Exquisite(絶妙な、精巧な)Gucci」と題したコレクションはテーラリングが充実。端正なスーツは男女の垣根を越え、さらにアディダスとのコラボレーションでスポーツウエアとの垣根も無くした。そこにはジェンダーもカテゴリーもない、グッチのルールのみが存在していた。
■ミニマルな中に女性的な曲線を描いた「ジル・サンダー(Jil Sander)」
キャッチーなシグネチャーがあるブランドと違い”ミニマム”がイメージとなると、削ぎ落としながら新しさを生み出すことは至難の技だ。しかしルーシー&ルーク・メイヤー(Lucie & Luke Meier)の二人は品位を保ちつつ、現代的なスパイスでミニマムを昇華してきた。今シーズンはミニ丈ボトムを合わせたセットアップやドレスなど、ブランドとしては珍しい丈にも挑戦。女性的な曲線と構築的なカッティングを巧みに同居させ、ミニマムな中に様々な表情を引き出すことに成功した。
■ファッションを通して現代社会に重ねる思い。
「プラダ(Prada)」は次代の女性像を映し出す鏡的存在だ。テーラリングやマスキュリンアイテムと、イブニングドレスやフェミニンな装飾を組み合わせることで互いを際立たせ、さらに衝突することで生まれる力強さを女性に喩えたようだ。スタンダードアイテムを伝統と捉え、きらびやかな装飾やフェミニンな要素を日々の暮らしの中でふとおとずれる記念すべき事項とし、過去と未来を繋ぐ女性たちの歴史として構成した。
リモートワークが仕事とプライベートをボーダーレス化した。今季は日常に溶け込むテーラリングが多いのもその一端だろう。そしてセクシャルに対するデザイナーたちの解答も注目された。ジェンダーレスやボディポジティブを称える一方で、「官能的」や「フェミニティ」といった言葉で女性と向き合うデザイナーもいたことは注目される。