
眼鏡販売チェーン「メガネスーパー」を中核ブランドとするビジョナリーホールディングスが、アイウェアブランド「ゾフ(Zoff)」を展開するインターメスティックの傘下に入った。これによりグループ全体の店舗数は600店舗を超え、国内有数のアイウェアチェーンが誕生した。
だが、この統合の意味は単なる店舗網の拡大ではない。「ゾフ」が持つブランド力や商品企画力、デジタル活用力と、メガネスーパーが長年培ってきたアイケアの専門性やコンタクトレンズ事業の基盤を掛け合わせることで、新たな成長モデルを描こうとしている。
その変化をもっとも前向きに捉えているのが、メガネスーパーの松本大輔社長だ。同氏は東京大学卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社し、11年間勤務。その後、自らコンサルティング会社を立ち上げ、現在はメガネスーパーを率いる。学生時代は水球部で活躍した。水球は「水中の格闘技」とも呼ばれ、水面下では激しい接触が繰り返される競技だ。しかし、現在の松本社長から感じるのは、むしろ静かな強さである。その語り口の中で何度も繰り返されたキーワードが、「付加価値」だ。
■「人生のパフォーマンス」を高めることが競争力になる
松本社長は、今後の眼鏡業界で重要になるのは価格競争ではなく、「顧客にどれだけ付加価値を提供できるか」だと語り、「メガネやコンタクトは単なる商品ではなく、人生のパフォーマンスを高めるツール」だと位置付ける。例えば、累進レンズによって仕事の効率が上がる。遠近両用コンタクトによって趣味を快適に楽しめる。あるいはカラーコンタクトによって印象が変わり、自信につながる。こうした変化は、単なる視力矯正の枠を超えている。「どの業界も同じですが、最終的にはお客様にとっての付加価値を提供できるかどうかです。価格だけで選ばれる時代ではありません」。
その考え方の背景には、アイウェア市場を取り巻く環境変化もある。強いデザイン性や世界観で若者を惹きつける海外ブランドが存在感を高める一方、異業種の国内企業も低価格の機能性サングラス市場へ相次いで参入している。アイウェアの選択肢が広がる中、単にモノを売るだけでは差別化が難しくなっている。だからこそ松本社長は、「人生そのものを豊かにする価値」を提案できるかどうかが、今後の競争力になると考えている。
■メガネとコンタクトを横断できる強み
そうした中で、メガネスーパー最大の競争優位性について、松本社長は「メガネとコンタクトの両方を軸に、お客様の見え方を総合的に提案できること」だと語る。一般的にはメガネ専門店という印象が強いが、実際にはコンタクトレンズ事業も大きな柱であり、売上の半分近くを占める。
「コンタクトを使っている方でも、夕方になると見えづらい、乾燥する、疲れる、外した後のメガネが合わないといった悩みがあります。そうした課題はコンタクトだけで解決できるものではありません」。仕事中はコンタクト、帰宅後はメガネ。パソコン作業用のメガネや遠近両用コンタクトなど、生活シーンに応じて最適な組み合わせを提案する。
「私たちは商品単位で考えていません。お客様の生活全体を見て、どうすれば快適な見え方を実現できるかを考えています」とし、ブランドロゴに添えられた「アイケア・ステーション」という言葉にも、その思想が表れている。あえて「ショップ」ではなく「ステーション」としたのは、売って終わりではなく、継続的に相談できる場所でありたいという思いからだ。
「視力や見え方は変化します。年齢や生活環境によっても変わっていきます。だからこそ、気軽に相談できる場所でありたい。私たちは3カ月に1回程度の見え方チェックやメガネ点検も推奨しています」。目の状態が変われば提案も変わる。その変化に寄り添い続けることが、メガネスーパーの価値だという。
■「ゾフ」との統合で見えた新たな可能性
2025年のインターメスティック傘下入りについて、松本社長は「コンタクトレンズ事業をさらに成長させる大きな機会」と位置付ける。メガネスーパーにはコンタクトレンズの販売基盤や継続顧客との接点がある。一方、「ゾフ」には商品企画力やブランド発信力、デジタル活用力、若年層との接点がある。
「これまでは、お客様の視力を最大限に引き出すことに集中してきました。言い換えれば、見えるようにすることには自信がありました。インターメスティックの上野博史社長と話をする中で、お客様にとってポジティブな価値をもっと提案できるのではないかとも思うようになりました」。松本社長自身、この統合でもっとも刺激を受けたのは、その発想の違いだったという。
象徴的なのが、カラーコンタクトやカラーレンズだ。「40代、50代の方でも興味を持つ方はたくさんいます。しかし私たちはどちらかというと職人的で、『視力を出すためにはこれです』という提案が中心でした」。視力を矯正し、アイパフォーマンスをマイナスからゼロに戻すことはできていた。しかし、その先にある楽しさや自己表現まで十分に提案できていたかと問われれば、そうではなかった。「インターメスティックグループになって一番楽しみにしているのは、そうした付加価値をお客様に提案できることです」と話す。アイケアだけではなく、ワクワクも売る。その発想は、メガネスーパーに新しい成長余地をもたらそうとしている。
■コンタクトを起点に生涯顧客をつくる
松本社長は、今後の成長戦略の鍵をコンタクトレンズ事業に見ている。コンタクトは一度きりの購入ではなく、継続利用される商材だ。定期的な購入を通じて顧客との接点を持ち続けることができる。「ECか店舗かという話ではありません。せっかく頻繁に来店していただいているのに、これまでは十分なプラス提案ができていなかった面もありました。両方をつなげることが重要です」。
来店前はウェブで情報収集し、必要に応じて店舗で相談する。購入後はECや定期購入、LINEを活用しながら継続利用し、見え方に変化があれば再び店舗で相談する。オンラインとオフラインを循環させながら、長期的な顧客関係を築いていく。その先には、コンタクトを入り口とした生涯顧客づくりがある。
■「目の健康」の認知度はまだ3%
松本社長が強い危機感を示すのが、紫外線対策をはじめとする眼の健康への意識だ。「肌の日焼け対策はみなさん熱心ですが、目は無防備なままです。目の健康に対する認知度は、私の感覚ではまだ3%くらいではないでしょうか」と話す。目の紫外線対策は圧倒的に遅れているという。
特に問題視しているのが、子ども時代から浴び続ける紫外線だ。「野球やサッカーなど屋外スポーツをする子どもたちは長時間紫外線を浴びています。将来、白内障リスクにつながる可能性があります」。高校野球でもサングラス着用が認められたが、普及はまだ限定的だ。「本当は全員が着けてもいいくらいだと思っています」。
同社では現在、紫外線をカットするクリアレンズの提案を強化している。需要は前年の約2倍に伸びているというが、松本社長は「まだまだ十分ではない」と語る。「白内障になってから後悔する方が多い。本人だけでなく、親御さんや学校も含めて啓発していかなければならないと思っています」。
■AI時代だからこそ、人の価値が高まる
AIやデジタル技術の進化についても、松本社長は前向きに捉えている。メガネスーパーには膨大な顧客カルテが蓄積されており、今後は需要予測や商品提案への活用が進むとみる。「購入履歴や相談内容、利用状況などを活用すれば、買い忘れを防いだり、必要なタイミングで情報を届けたりできます。AIによって提案の精度はさらに高まるでしょう」。
しかし、人の役割がなくなるとは考えていない。「お客様がどんな生活をしているのか、どんな悩みを抱えているのかは会話の中で見えてくる部分が大きい。最終的に生活に合った提案に落とし込むのは人の仕事です」。
メガネスーパーには、国家資格である眼鏡作製技能士を保有するエキスパートが328名在籍しており、顧客のこうした悩みに日々向き合っている。さらに、今年は123人の新卒社員を採用した。「昨年あたりから『AI時代でも残る仕事に就きたい』という学生が増えている印象を受けます。いろいろな仕事がAIによって淘汰されていく中で、私どものような目の健康に関わる仕事はなくならないと捉える若い方が増えてきていると感じます。どれだけAIが進化したとしても、アイケアの仕事はなくならないと思います」。AIが人を代替するのではなく、人の提案力を高める。その考え方は一貫している。
■「付加価値」の原点
松本社長のこうした経営観の原点は、幼少期にある。父親は現在のベイシアグループの前身であるいせや時代から、創業者の側近として経営企画に携わっていたという。「父は創業者と一緒に海外へ視察に行ったり、新しい店づくりに関わっていました。『カインズ』のネーミングを決めるプロジェクトにも携わっていました」といい、家には毎月、社内報が置かれてあった。そこに書かれていたのは、売り上げや利益ではなく、「世の中にどんな価値を提供するのか」だったという。
当時、松本社長が育った群馬県の地方都市では、現在のようにコンビニもショッピングモールもなかった。「小学生の頃、消しゴム一つ買うにも遠くまで行かなければいけない時代でした。そんな中で、『こういう店があれば地域の人の生活が便利になる』という話が社内報に書かれていました」。その価値観は、現在の松本社長が繰り返し口にする「付加価値」という言葉にもつながっている。
「子どもの頃から、世の中に付加価値を提供することが大事だという話を読み続けていました。大人になったら、そういう仕事がしたいと思っていました」。だからこそ、メガネスーパーが目指す姿も明確だ。「専門知識や技術があるだけではなく、お客様の悩みをしっかり聞いて解決できる存在になりたい。弁護士や医師のようなプロフェッショナルでありたいと思っています」。その理想像を表すのが、やはり「アイケア・ステーション」という言葉である。
ネット検索やAIでは得られない安心感。悩みを聞き、最適な解決策を提案する専門家。そして、その先には新しい自分に出会う楽しさもある。アイケアとファッション、専門性とワクワク感。その両立こそが、インターメスティック傘下入り後のメガネスーパーが目指す姿なのだろう。視力を矯正する会社から、人生のパフォーマンスを支える会社へ。松本大輔社長が追い求める「付加価値」とは、見えることの先にある人生をより明るくすることなのかもしれない。メガネスーパーが売ろうとしているのは、視力ではなく、その先に広がる可能性なのだから。









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