・営業利益299億円(前年同期比▲23.9%)
・純利益183億円(▲36.9%)
・通期予想も営業利益500億円→440億円へと下方修正
何かを変えないと、さらに負けそうな気配だ。
◾️今の状態は?
連結売上高は6225億円(+0.7%)とわずかな増収。一見堅調だが、内実は厳しい。春以降の円高で免税売上が想定を下回り、人件費と改装費用が重くのしかかった。要するに「人は来るのに儲からない」状態だ。
主力の大丸松坂屋百貨店は、売上3659億円(+0.2%)。大丸心斎橋店▲5.2%、京都店▲12.4%、東京店▲2.9%。観光地や高額品依存の店舗ほど落ち込みが大きい。爆買いが途絶え、免税需要が「モノ」から「コト」に変わる中で、客単価の低下と円高が同時に利益を削った。
一方、パルコ事業は売上1726億円(+6.2%)と絶好調。心斎橋+3.9%、名古屋+6.1%、福岡+7.2%と主要都市で軒並みプラス。地元の若年層や共働き層が支えた結果で、「地元文化に根ざした消費」が利益を生んでいる。ちなみに、百貨店事業の営業利益率は約4.5%。パルコの半分程度しかなく、構造的な体力差が鮮明になっている。
◾️街を動かす編集者へ
J.フロントには、他社にない三つの強みがある。百貨店が持つ「信頼」、パルコが持つ「文化編集力」、建装が持つ「空間デザイン力」だ。これらを掛け合わせれば、街全体を編集する企業になれる。心斎橋や名古屋では、若手起業家とのリノベ案件が動き始め、百貨店の空きスペースを「街の文化インフラ」として再利用している。「渋谷PARCO」では、ECやNFTイベントなどデジタル売上を増やす試みも進む。
つまり、文化と収益を両立する「街づくりモデル」を探している最中だ。街の主役は、生活者だ。百貨店は単なる商業施設ではなく、「都市を動かす装置」に変わる。地元に愛される店をつくれば街に熱が生まれ、外から人が集まる。やがて、富裕層もインバウンドも戻ってくる構図だ。
◾️阪急阪神が博覧会で街を使ったのは大正解
良い例があるんだ。阪急阪神は大阪・関西万博を「一時的なイベント」ではなく、「ファッション、花、建築、アート」を混ぜて、梅田を「体験都市」に大胆に変えたんだ。「モノを売る」から「都市のオリジナルな魅力を見せる」空間へ。実は、これは百貨店が長年やってきたようで、全くできていなかった「街の編集」なんだな。
J.フロントが進むべきは、同じことを自分の街から始めることだ。イベントを待つのではなく、文化と共感で街を動かす。街を再編集して、オリジナル文化を作る余地はまだ大きいと思うよ。
◾️株価の評価は?
10月15日の終値は2,435円(▲2.0%)。下方修正を嫌気した売りが出たが、投げ売りではなく「失望の静かな下げ」だ。直近3カ月のレンジは2,350〜2,600円。今回の下落で下限圏まで来た。中間期の数字は悪いが、構造的な悪化ではない。パルコ・建装の稼ぐ力は底堅く、来期は改装効果も寄与する。配当利回りは約2.5%、自己資本比率は60%超。財務基盤は安定している。
短期では2,300円前後が押し目。長期では街づくりビジネスへの転換が数字に表れ始めるのが2026年以降だ。中期では「動かす百貨店」。百貨店自身が街の独自コンセプトを描く時代。他業態には真似できない領域だ。
プロフィール:いづも巳之助
プライム上場企業元役員として、マーケ、デジタル事業、株式担当などを歴任。現在は、中小企業の営業部門取締役。15年前からムリをしない、のんびりとした分散投資を手がけ、保有株式30銘柄で、評価額約1億円。主に生活関連の流通株を得意とする。たまに神社仏閣への祈祷、占い、風水など神頼み!の方法で、保有株高騰を願うフツー感覚の個人投資家。