決算説明会の質疑応答では、投資家が最も注目したのが「資本政策」だ。記者からの質問に対し、経営陣はこう答えた。「特定株主の意見については、中長期的な企業価値向上に向け、取り入れるべきことは取り入れ、相違点はそうではないということも含めて検討した上で、今回の資本政策を組み立てている」。これほど明確に「特定株主」という言葉を使うのは異例だ。つまり経営は、アクティビストの存在を認めた上で対話している。「意識していない」どころか、真っ正面から向き合っているな。
■200億円の自社株買いは「迎撃」ではなく「同調」
旧村上ファンド系が髙島屋株を買い増したのは9月。わずか3週間後に、経営が増配と自社株買いを発表した。このスピードは、防戦ではなく「同調」だな。
彼らが求める5項目
①配当性向引き上げ
②自社株買い
③ROIC経営
④ノンコア資産の流動化
⑤ガバナンス刷新
このうち、④以外のすでに4項目が実行済みだ。
「資本コストを意識した経営」という文言が、経営報告書にも明記された。アクティビストが要求する「基本通りの資本政策」を、老舗が自ら実践したんだ。
■次に求められるのは、「ノンコア資産の流動化」だ
髙島屋の強みは不動産だ。日本橋、横浜、京都、大阪と、主要店舗の土地・建物を自社保有している。この含み益は時価ベースで約1200億円。だが、どの資産をどう活かしてキャッシュを生むのかは、まだ語られていない。決算説明でのQ&Aでも「ノンコア資産についてはスキームを研究している」と歯切れが悪かった。ここから先は、「資産を持つ」から「資産を動かす」へ。投資家が見たいのは、建物や土地をどう事業化するかという「物語の設計図」だ。百貨店ほぼ全社が争うようにこの問題に着手し始めた。REIT化や再開発だけでなく、まちづくりとの連携も含めて、その設計図を市場は待っている。
■それでも、よくぞここまで踏み込んだ
百貨店が200億円もの自社株買いを打つ時代が来るとは思わなかった。三越伊勢丹も動き始めたが、髙島屋が同規模の200億円を打ち出すのは初めてだ。しかも、アクティビストとの対話を経ての自社株買いという点で、業界の意味合いはまったく違う。また、同社は従業員向けに「元日+1月2日の連休」を導入し、人的資本経営も前進中。ESGと資本効率という、まったく異なる2つの軸を同時に動かしている。ROIC・EBITDA・配当・自社株買い。この4点を連動させた髙島屋の経営は、「アクティビストに対しての防戦」ではなく、「経営が資本政策を組み立て、実践に移した」というポジティブなアクションを狙う構えだ。
■投資家としての見立て
10月21日時点の株価は1,645円(PER14.3倍・PBR1.0倍)。200億円の自社株買いを織り込みつつも、まだ市場は「本気度」を完全に信じ切っていない。想定EPSベースで、来期の適正PERレンジを13〜15倍とすれば、適正購買価格は1,550〜1,600円かな。
巳之助は「応じた老舗」と「動かぬ不動産」で少し迷うけど。
プロフィール:いづも巳之助
プライム上場企業元役員として、マーケ、デジタル事業、株式担当などを歴任。現在は、中小企業の営業部門取締役。15年前からムリをしない、のんびりとした分散投資を手がけ、保有株式30銘柄で、評価額約1億円。主に生活関連の流通株を得意とする。たまに神社仏閣への祈祷、占い、風水など神頼み!の方法で、保有株高騰を願うフツー感覚の個人投資家。