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「ディオール」のハンドバッグをミラノ近郊で作っていた中国人問題の本質とは?

Jul 30, 2024.北條貴文Tokyo, JP
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「ディオール」の店舗(PRTIMESより)

「パリ五輪」が開催中だ。これに先立つ6月、モードの都を代表するラグジュアリーブランド、「ディオール(DIOR)」に激震が走った。基幹商材であるハンドバッグを製造するイタリアの工場が、サプライヤー企業で発生した人権侵害により1年間、行政の監督下に置かれることが報じられたのだ。

問題のポイントを挙げてみると、1.問題の下請け工場はミラノ近郊にある。2.働いていた工員の多くは中国から来ており、うち2人は不法滞在で7人が必要書類なしで就業していた。3.不法移民や移民がイタリアの高級ブランドを製造するケースは今回が初めてではない。4.「ディオール」ブランドを傘下にもつLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)は本件に対してコメントしていない。

私が知る限り、こうした事態は90年代末から数多くのラグジュアリーブランドや高級ブランドではまかり通っていた。「ディオール」だけの問題とも言えず、この事件の問題点をきちんと指摘しているメディアが他にないので書いてみる。

まず、製造された「ディオール」のハンドバッグには原産地を示す「Made in Italy」の刻印がなされている。一般消費者にとっては、それは不法滞在の移民たちの母国である中国の工場なり、モロッコの工場で作った同じハンドバッグとはどこがどう違うのかということになる。中国の工場で作ったのであれば「Made in China」であり、モロッコの工場で作ったのであれば「Made in Morocco」なのだが、それにどういう違いがあるのか?

ここで、有象無象のバッグ屋ではない、ラグジュアリーブランドの本質について確認しておく。「ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)」「シャネル(CHANEL)」「グッチ(GUCCI)」「エルメス(HERMES)」などに代表される(4大ブランド以外にも「ディオール」、「プラダ」、「サンローラン」などがある)ラグジュアリーブランドというものの基本的な条件のひとつとして、「そのブランドが発祥した国で製造される」ことが暗黙のうちに挙げられているのだ。

それを踏まえた上で、今回の「ディオール」バッグが、ブランド発祥地であるフランスではなくイタリアで製造されてもよいのかという問題について考察すると、いわゆる旧ヨーロッパであるならば問題はないという暗黙の了解が出来上がっているのだ。昔はスペインだってフランスだってイタリアだってひとつの国だったのだという歴史認識があるのだ。もちろんこれがユーゴスラビアとかハンガリーとかポーランドとかルーマニアでは、駄目なのだろう。このあたりが、ラグジュアリーブランドがヨーロッパ(西欧という言葉がある)というものの長い歴史が生んだ「発明品」という証左になるのだ。繰り返すが、決まりごとではない。暗黙の了解事項だ。

しかし今回のように、ミラノ郊外で不法移民に「最低賃金以下」で「倫理的に認められない衛生状況下」で「過負荷状態の機械を稼働させる」という超過労働を強いて、「Made in Italy」を名乗ることに何の意味があるのだろう。ミラノ裁判所が「ディオール」イタリア支社のカバン製造業者である「ディオールSRL」に対して司法行政予防措置を命令し、1年間業者を監督する司法行政官を任命するなど相当なことだ。

クリスチャン・ディオール(Christian Dior)が1946年に創業した「ディオール」は、未だパリ・オートクチュール界のトップに君臨し続けるモードの旗手であり、LVMHの創業者であるベルナール・アルノー(Bernard Arnault)が初めて買収したブランドだ。規模では3兆円クラスの「ルイ・ヴィトン」に及ぶべくもないが、現在13兆円に上るLVMH帝国の端緒になった存在である。その「ディオール」がこの不祥事。LVMHの総帥は、このニュースをどう聞いたのだろうか。

ロイターが調査文書を引用して報じた内容によると、「ディオール」がバッグの製造に対し業者に支払った報酬は57ドル(約9,690円/1ユーロ=170円で換算)で、それを約2,780ドル(約47万円)で販売していたという。なお、皮革などの原材料にかかるコストは含まれていない。実に小売価格は工賃の約47倍である。今後の参考になる数字が詳らかになったわけだが、今回の事態がラグジュアリーブランドに対する消費者の信頼を失う契機にならなければよいなとは思う。その一方で、「こんなことはもう何度もバレている。そのたびに圧力で揉み消してきたのだ」とほくそ笑むラグジュアリーブランド関係者の顔もいくつか浮かぶのである。

 

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