
サントリーホールディングスは9月2日、代表取締役会長を務める新浪剛史氏が9月1日付で辞任したと発表した。新浪氏を巡っては、海外から輸入・購入したサプリメントに大麻由来成分「THC(テトラヒドロカンナビノール)」が含まれていた可能性が指摘されており、福岡県警が8月22日に自宅の家宅捜索を行った。捜査段階で違法性は確認されていないが、国内外で影響力を持つ経営者の突然の辞任劇は、経済界に大きな衝撃を与えている。
問題となったサプリメントは海外で販売されていたもので、日本国内では規制対象となる可能性がある。現時点で新浪氏による違法な所持や使用は確認されておらず、本人も「適法であると認識していた」と説明している。警察当局は引き続き慎重に捜査を進めている。
サントリーホールディングスは9月2日午後、東京都内で鳥井信宏社長と山田賢治副社長による緊急会見を開いた。現時点で立件されてはいないものの、「経営トップに疑義が生じること自体、求められる資質を欠くと指摘せざるを得ない」と述べ、辞任を受理した経緯を説明した。新浪氏は海外出張先から9月1日に帰国した際、自ら辞任の意向を伝えたという。
新浪氏は三菱商事を経て、ローソン社長としてコンビニ業界に新風を吹き込み、2014年からサントリーHD社長、2022年からは会長を務めた。経済同友会代表幹事も歴任し、経済界を代表するリーダーの一人として知られる。
その一方で、「社員は45歳定年制にすべきだ」といった提言や、旧ジャニーズ事務所の性加害問題に対して「スポンサーとして、説明責任を果たすべき」と発言するなど、社会的な論点に踏み込む姿勢でも注目を集めてきた。SNS上でも賛否両論を呼ぶ人物であり、今回の辞任は「時代を象徴する経営者の失墜」として受け止められている。だが一方で、捜査が継続中で違法性はまだ確認されていないことから、辞任は早すぎるのではないかとの見方も一部である。
「経営トップに一点の疑義も許されない」とする企業統治の厳格化の潮流と、影響力ある経営者の存在感。この二つが交差した今回の辞任劇は、経済界に長く議論を残すことになりそうだ。