広告会社の博報堂が発行元になっている雑誌「広告」の3月31日発売号(Vol.417、特集:文化)に収録された批評家の矢野利裕氏と社会学者の田島悠来氏の対談「ジャニーズは、いかに大衆文化たりうるのか」において、博報堂による対談の一部削除が行われたことを、矢野氏が発行当日の3月31日に自身のnoteに公開したのが「話題」になっている。削除されたのは1980年代以降のジャニーズによる「ジャニーズ帝国」と言われるほどのマスメディアへの強大な影響力についての一部言及。3月7日にBBCが「ジャニー喜多川によるセクハラ問題」のドキュメンタリーが放送したばかりで、実にタイムリーな対談企画ではあった。しかし、矢野氏はそのBBCからの取材を受けた人物でもあった。当然のことながら、ジャニーズとも関係の深い博報堂は、その対談を厳しくチェックし、博報堂の広報室長の判断により一部表現(ジャニー喜多川氏がセクシャルハラスメントを行なっていたこと)が削除されたのだ。これに、小野直紀編集長は反発し、広報室長と議論を重ねたが平行線を辿り、結局削除した上で、広報室の許可を得て、記事末尾に「ビジネスパートナーであるジャニーズ事務所への配慮のため一部表現を削除しています」と記されることになった。
こうした経緯を読んでみると「へえ」と思うことがいくつかある。広告会社(広告代理店)が出版している雑誌で、そうした忖度があるのは当たり前だろう。「これはヤバイ」という内容があったのなら削除するのは広告会社の雑誌である以上自然の成り行きだと思う。一般の雑誌、新聞ですら、広告の出稿があるクライアントに対する記事で配慮があるのは今の時代では仕方のないことだ。さらに首をかしげるのは、BBCの取材を受けるような一種の「危険人物」を選んで対談を行っていることだ。
小野編集長は「博報堂の一社員として、間接的にでも博報堂の悪しき慣習に加担していることを自覚したうえで、博報堂の善い部分が強化され、悪い部分が浄化されることを心から願います」と自身のnoteに記しているという。博報堂の「悪い部分」は知っているが、一体、博報堂の「善い部分」とは何なのか?
広告会社が「文化」を論ずる雑誌を出版することが悪いとは言わないが、当然その限界というのはあるはずで、その限界との戦いをするのが編集長の仕事だとは思う。
しかし、雑誌名が「広告」というのはいかがなものだろうか。そんな雑誌名の雑誌を編集している編集長が、「ビジネスパートナーへの配慮(忖度)に集中してしまい、社長や著作者・著作物に対する配慮(敬意)が後回しになったのでしょう」と会社を他人事のように非難している。このジャーナリストを気取ったような態度もいかがなものだろうか。
話は変わるが、このBBCの「ジャニー喜多川のセクハラ問題」ドキュメンタリー放送に対して、大手マスコミはダンマリを決めこんでいる。それはいいとして、まるでそれに対する威嚇射撃みたいに、2月、3月に発売された40誌以上の雑誌でジャニーズのSnow Manの目黒蓮が表紙を飾ったのが話題になっている。2月、3月に発売される3月号、4月号は春物のスタート時期にあたり広告収入が最も多い号の一つであり、重要な号だ。そこに、この目黒蓮によるジャニーズの大攻勢があったのだ。
大看板だったスマップの2016年12月31日の解散以来、ジャニーズをめぐってはあまりいいニュースを聞かない。創業者ジャニー喜多川の2019年7月9日の死去、その後を継いだ妹のメリー喜多川の2021年8月14日の死去、経営陣の若返りを図るべく登用された滝沢秀明ジャニーズアイランド社長の昨年9月の退社などなど。
またBTSに代表される韓国のアイドルグループが海外で派手に活躍するのにジャニーズ事務所のアイドルグループの海外での活躍はほとんど聞かないし、YouTubeをはじめとしたデジタル戦略にも後れを取っていると言われる。「ジャニーズの黄昏」と言ってもいいような状況である。
ところが、そうした暗雲を一気に振り払うようなアイドルグループが誕生した。Snow Manである。グループの結成は2012年5月3日と古く、アクロバットとダンスが得意で先輩グループのバックダンサーを務める日々が続いていたという。人気に火が付いたのは2019年に目黒蓮(現在26歳)を含む3人の新メンバーが加入してから。その年にCDデビューを果たしてからは、トントン拍子で人気アイドルグループの道をひた走っている。TV、映画、イベント、雑誌という従来のアナログ・メディアによってその人気を形成しているのが面白い。今のデジタル時代を笑い飛ばすような人気だ。特に9人の中でも目黒蓮の人気が突出している。目黒は現在ヤング男性誌『FINEBOYS』(日之出出版)のレギュラーモデルだが、さらにドラマや映画にも引っ張りだこだ。2022年に社会現象を巻き起こしたドラマ『silent』をはじめ、NHKの連続テレビ小説『舞い上がれ!』や映画『月の満ち欠け』など、様々なキャラクターを演じ分けている。その人気は、SMAPのキムタクこと木村拓哉に匹敵しジャニーズ帝国はしばらく安泰だという声もあるのだ。