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LVMHはなぜ「ティファニー」を買収するのか?

Oct 31, 2019.橋本雅彦Tokyo, JP
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中国・上海で開催中の「ティファニー」のVISION & VIRTUOSITY

仰天するような買収話が持ち上がった。「ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)」などのラグジュアリーブランドを多数擁するブランドコングロマリットのモエヘネシー・ルイ ヴィトン(Moët Hennessy Louis Vuitton、以下LVMH)が「ティファニー(Tiffany&Co.)」と買収交渉をしていることが明らかになったのだ。LVMHが提示した条件は1株当り22%のプレミアムをつけた120ドルで推定では総額145億ドル。日本円で約1兆5800億円に上る。実現すればLVMHにとっては過去最大の買収になる。「ティファニー」はニューヨーク証券取引所に上場しているが、10月25日金曜日の終値は98ドル55セントだったが、このニュースが「ブルームバーグ」などで報道された後の10月26日月曜日の終値は129ドル72セントまで高騰。32%の上昇率は過去最大だ。ちなみに「ティファニー 」は、1980年代には化粧品メーカーのエイボン・プロダクツ社に買収されていた時期がある。

しかし、ラグジュアリーブランドのコングロマリットであるリシュモン(中核ブランドは「カルティエ(Cartier)」やケリング(中核ブランドは「グッチ(GUCCI)」)も関心を示さないはずはなく、今後買収価格が吊り上がる可能性がありそうだ。買収の行方が大いに注目されるところだ。

LVMHは、米国戦略の拠点として2001年にダナ・キャラン社を6億ドル(当時のレート換算で約660億円)で買収したが、この買収は失敗に終わり、2016年に6億5000万ドル(同約690億円)でG-Ⅲに売却している。LVMHの現在の米国での保有ブランドは、「マーク ジェイコブス(Marc Jacobs)」だ。現在「ルイ・ヴィトン」のアーティスティック・ディレクターを務めるニコラ・ゲスキエール(Nicolas Ghesquière)の前任者であるマーク・ジェイコブスの会社である。さらに最近では、リアーナ(Rihanna)をクリエイティブ・ディレクターに据えた「フェンティ(Fenty)」を傘下においている。米国における勢力拡大を目指すとするならば、米国で唯一のラグジュアリーブランドと表される「ティファニー」を傘下におくことの意義は大きい。

また、LVMHのハイジュエリーのラインアップは、「フレッド(Fred)」(95年買収)、「ショーメ(Chaumet)」(99年買収)、「ブルガリ(BVLGARI)」(01年買収)、「デビアス(DeBeers)」(02年買収)があるが、ハイジュエリーのビジネスは、ファッション&レザーグッズに比べて、利益率が高い。半年で商品が流行遅れになり処分しなければならないファッション(プレタポルテ)に比べれば、定番比率が高くシーズンをまたいでキャリーできるレザーグッズの利益率は高い。しかしそのレザーグッズに比べても、商品が腐らずにほぼ寿命がないハイジュエリーの利益率が圧倒的に高いのは当然だ。特に最近の「ブルガリ」買収で、このことをLVMHの総帥であるベルナール・アルノー(Bernard Arnault)が会得しなかったはずはないのだ。この1兆5800億円という金額は、たしかにLVMHにとってさえ巨額だ。しかし、その価値は確かにあるのである。2018年12月期のLVMHの決算は売上高は468億ユーロ(約5兆6759億円*)、営業利益は98億7700万ユーロ(約1兆1978億円*)、当期純利益は69億9000万ユーロ(約8477億円*)。この決算を見る限り、決して買えない金額ではない。ラグジュアリーブランドの世界にとっては、関ヶ原の戦いと言われた1990年代の「グッチ」買収合戦、2000年代の「エルメス(Hermes)」買収合戦に続く今回の「ティファニー」買収ではある。「グッチ」「エルメス」は、両ブランドの防衛が成功し、LVMHが一敗地にまみれたのだが、今回はどういう展開になるのか?大いに注目である。

*1ユーロ=121.28円換算(10月31日時点)

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