「第24回YKK ファスニングアワード」のアパレル部門は6782点の応募から5作品が選出され、グランプリには大阪文化服装学院の岩野蓮祐氏の作品「『個』としての美しさ」が選ばれた。POWERHOOK®をテキスタイルに落とし込んだビッグシルエットのブルゾンとハーフパンツのセットアップの作品で、「70年代のパンクスタイルと90年代のストリートスタイルをミックスして、さらにYKKのファスナーでハイファッションを表現している」と審査員の藤田恭一氏も高く評価している。
グランプリを受賞した岩野蓮祐氏は、「ファスナーを開閉に限定するのではなく、どう格好良く見せられるかに主眼を置き、機能的な美しさにフォーカスしてギャザーを表現しました。今回グランプリをいただけたことで、自分の物の考え方やデザインをこのまま続けてもいいんだと自信になりました」とコメントしている。
■アパレル部門優秀賞
アパレル部門の優秀賞は、エスモード東京校のヨン ミャッスリン氏の作品「Adapta Raincoat」だ。雨具に着目したデザインで、袖と裾が取り外しでき、AquaGuard® ファスナーをはじめYKKの5つのアイテムが使用されている。廣川玉枝氏は、「楽しめる服を作るという着眼点がとても良かったです。雨の日は外出が億劫になりがちですが、この作品には虹がプリントされていて、楽しい服になっています」と評価した。
ヨン ミャッスリン氏は、「普段目にするレインコートは平凡なものが多いなと感じていたので、いかに面白くできるかを考えて、姿を変えたり、虹を表現することで着ても見ても楽しいデザインを心掛けました。ファスナーを起点にした服作りをしたことがなかったのでとても勉強になり、自分のクリエイティブの幅も広がるいい機会をいただきました」とコメントしている。
■アパレル部門審査員特別賞
アパレル部門の審査員特別賞を受賞したのは、大阪文化服装学院の白草於登巴氏の作品「LAUNDRY」で、洗濯機のような造形のポケットや洗濯表示のプリントが施され、鮮やかな赤いファスナーがポップさを演出している作品だ。ボリューミーでビッグシルエットながら、軽やかさがあり、造形力のセンスも抜群だ。洗濯機を模したパーツとYKKのファスナーがリズミカルにバランスよく構成された作品に仕上げた。
白草於登巴氏は、「今までで一番自分の個性を出せたという感触があり、YKKのファスナーを通じて自分の服作りの幅も広がったように思います。最もこだわったのはシルエットです。ボリュームがあって塊のように見えるのではなく、ディテール部分も突き詰めて美しく見えるように工夫しました。自分のブランドを持つという夢よりも、今はとにかく服作りをするうえで着た人をワクワクさせたり、楽しんでもらえるような人になりたいという思いが強くなりました」と、語っている。
作品「MT or AT」で、アパレル部門で同じく審査員特別賞を受賞したのは名古屋ファッション専門学校の田中愛友氏だ。片方のファスナーを手で動かすともう片方のファスナーが自動で動くという作品で、「力点・支点・作用点に着目した、まるで物理の実験のような洋服です」と、藤田恭一氏が解説している。
田中愛友氏は、「最初は無謀なアイデアかなと思っていたのですが、それが成功して良かったです。ファッション業界で活用が進んでいるAIについて考えたときに、人の手や力があってこそ新しい可能性があるということを伝えたいと思い、手動と自動に着目しました。ただ、ファスナーが自動で開閉することは物理学的に成立しても、洋服の布に置き換えるとなかなかうまく実現しないという苦労がありました。いつかたくさんの人の手に取ってもらい、生活に変化や気づきをもたらせるデザイナーになりたいです」と、コメントしている。
■アパレル部門YKK特別賞
アパレル部門のYKK特別賞は、文化ファッション大学院大学の呉耀祖氏の作品「カメレオン」が受賞した。カメレオンの色変化と形態から着想を得たデザインで、リュックと袖のシルエットはカメレオンの背中を、丸いポケットは尾を模倣した。今回が2回目のチャレンジだという呉耀祖氏は、「70から80個のパーツを使用しているので、特に縫製に苦労しました。将来はデザイナーとして自分のブランドに挑戦したいのが一つと、日本で学んだことを出身の中国に持ち帰り、大学の先生としてそれを伝えていくことも夢です」と語っている。
YKKの大谷裕明社長は、「ファスニング商品には、留める、開くといった基本的な機能がありますが、変化というところが本当に素晴らしく、こんな使い方があるのかと私たち審査員やYKKの社員も学ばせていただきました。カメレオンという名前のごとく、変化の完成度が高い素晴らしい作品でした」と、評価した。
■ファッショングッズ部門グランプリ
「第24回YKK ファスニングアワード」のファッショングッズ部門は1826作品の応募から4作品が選出され、グランプリには審査員の舘鼻則孝氏も「圧倒的な完成度」だと絶賛した、文化服装学院のラ ショウカ氏の作品「Protection」が選ばれた。「作者の記憶を保管するような、コンセプト、メッセージ性含めてクオリティが高い作品」だとして、見事にグランプリ受賞となった。
ラ ショウカ氏は、「私の宝物の『熊のぬいぐるみ』、親の持ち物である「水晶」、そして「アイスクリーム」の3種類の「大切な物」を大事に保管し、持ち運ぶにはどのような形にするべきか、というアプローチで制作を進めました。中身が浮いている様に見せるのに、YKKの「回転バックル」が役に立ちました。今回の受賞で物作りへのモチベーションの更なる高まりを感じたので、今後も、遊び心のある大人の方に向けたバッグを作れたらと思います」と、作品のコンセプトと受賞の喜びを語っている。
■ファッショングッズ部門優秀賞
優秀賞は、大阪モード学園の寺尾佳樹氏の「MA-1 ニット帽」が受賞した。ビーニーとマフラーが一体となり、手袋としても利用できる作品で、YKKのファスナーのEXCELLA®を使用したエッジの効いたデザインに仕上げている。「『ありそうでないデザイン』の作品にしたいと思った。MA-1の中にある要素だけでグッズ化した点がこだわり」とコメントした。
「WWD JAPAN」の村上要編集長は、「頭の部分が小さなMA-1になっていて、袖を巻くとビーニーとマフラーが一緒になる作品で、とても遊び心があると思いました」とコメントしている。
■ファッショングッズ部門審査員特別賞
審査員特別賞は、国際トータルファッション専門学校の齋藤瑛莉花氏の作品で、扇子から着想された「HAND FAN bag」が受賞した。扇子の構造をモチーフにしたバッグで、三角形のパーツを24枚重ねており、「スムーズな開閉と動きの美しさ」にこだわったという。「今回の受賞で得た交流とモチベーションを原動力に、今後も制作を続けたいです。将来は遊び心のあるデザインを届けられるデザイナーになれたらと思います」と語っている。
齋藤瑛莉花氏の受賞作品「HAND FAN bag」について、舘鼻則孝氏は「作者のアイデアがしっかりと形にされており、デザインと機能性が両立するファッショングッズとして優れていると思います。3Dプリンターを使用してオリジナルのパーツを自作するという試みも、今までの作品には無かった部分です」と評価した。
■ファッショングッズ部門YKK特別賞
YKK特別賞には、エスモード東京校の村上諒天の作品「二面性」が選ばれた。コート、そしてバッグとツーウェイに変化するアイテムで、太務歯メタルファスナーやPERMEX®などが使われている。「この受賞をスタート地点だと捉え、夢である『子供心を忘れないブランド』の実現に向けて今後も取り組みたいです」と語った。
YKKの大谷裕明社長は、「この作品はファッショングッズとしてのエントリーながら、アパレルアイテムとしても優れた完成度を誇っています。見た目からはコートになるとは想像できず、変形することで全く新しい形状を見せる秀逸な作品だと思いました。多くのファスニング商品を組み合わせることで実現される変形構造にもかかわらず、重厚感を感じさせず、着用時に軽やかで自然な仕上がりとなっている点を評価しました」と語り、すぐにでも商品化できそうな完成度の高さに魅力を感じたという。
いずれの受賞作品もファスナーの特性を分析し、独自のデザインへと展開していったユニークで優れたものばかりであった。ストーリーを膨らませ、まとめきる力も審査員たちに高く評価された。ファスナーがもつ多様性を見事に表現した受賞作品は、「YKK ファスニングアワード」の公式サイトで閲覧することが可能だ。来年で25周年を迎える「YKK ファスニングアワード」に今後も注目したい。