オンワードホールディングスは、今期(2021年2月期)に国内外で700店の閉店を予定すると2月決算発表時に明らかにした。前期には約700店を閉店したが、これで全世界に約3000ある同社の店舗のほぼ半数を閉店することになる。ECへのシフトを徹底的に進め、グループ全体の売り上げの50%をEC化する方針だ。なお2020年2月期決算は営業損失が30億円、経常損失が38億円、当期純損失が521億円と全ての利益が赤字。来期の業績見込みは新型コロナウイルスの影響が算定できないため未定だが、赤字は確定的で前期24円の配当も減配もしくは無配が予想される。
そうした危機的状況の中で5月28日付の人事異動が発表になった。オンワードホールディングスの大澤道雄代表取締役専務が退任しオンワード樫山取締役会長に専念する他、佐藤修、池田大介の2人の執行役員の取締役就任があり、3人の監査役が退任して、新たに3人の監査役が就任。
新監査役は、オンワードホールディングスの専務取締役を退任予定の一瀬久幸氏が常勤、アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナーの梅津立氏が非常勤監査役、そしてもう一人の非常勤監査役が有限会社草野事務所の代表取締役である草野満代氏である。
この草野満代氏とは、元NHKアナウンサーの草野満代氏である。1967年2月4日生まれの53歳。岐阜県中津川市出身。津田塾大学学芸部数学科卒業後、NHK入局。TBSテレビへの移籍がゴシップ騒動に発展した後に、97年2月12日にNHKを退職して、以後セント・フォースと業務提携してフリーアナウンサーとして活躍中だ。アナウンサー以外の活動としては、法テラス理事や文部科学省日本ユネスコ国内委員会委員などの有識者会議のメンバーを務め、2019年6月には日本スポーツ協会副会長(会長は伊藤雅俊イトーヨーカドー名誉会長)に就任。きものコンサルタントの資格があり、趣味はドライブ、ワイン、旅行、映画、茶道、音楽とセント・フォースの紹介ページ及びWikipediaにはある。
この草野氏の起用は一体どういう理由によるものなのか?経歴を調べてみてもオンワードホールディングスの監査役にふさわしい経歴というのが見つけ出せない。津田塾大学で数学を学んだこと?数字には強いのかもしれないが、オンワードホールディングスの決算書が読めるとも思えない。きものコンサルタントの資格?いや、オンワード樫山は2015年に着物事業からは撤退しているので関係ない。何か関連があるとすれば、日本スポーツ協会副会長という肩書きぐらいかと思えるのだが。この草野女史、政財界でその講演会がたいへんな人気なのだという。どんな話をしているのか興味すら湧かないけれども。しかしこうした危急存亡の時期に監査役を任せられるような人物なのかどうかはきわめて疑問である。1400店も店を閉めて、大構造改革を断行しようとするときに、どなたのお友達なのかは知らないが、草野満代氏のような人物がふさわしいのかどうか。
監査役とは「日本の株式会社において、取締役及び会計参与の業務を監査する機関である。会社経営の業務監査及び会計監査によって、違法または著しく不当な職権執行行為がないかどうか調べ、それがあれば阻止・是正するのが職務」と会社法には定義されている。もう少し時宜にかなった人選があって然るべきだろう。
女性タレントに経営を任せた例としては、他業種ではNHKやテレビ東京でキャスターを務めた野中ともよをスカウトし代表取締役会長として経営を任せた三洋電機(2007年に経営悪化の責任を取って辞任)の例がある。これが原因で三洋電機は消滅した。またファッション&アパレル業界では、バレーボールの日本代表で女性下着訪問販売のシャルレ(現テン・アローズ)の代表執行役社長に2004年就任した三屋裕子(2007年に株主総会で解任)がいる。2人ともあまり良い結果を出していないが、草野満代監査役はオンワードを厳しく監査することができるのだろうか。