李大統領は6月半ば、カナダ西部で開催された主要7カ国首脳会議(G7サミット)に招待され、金恵景氏とともに出席した。
就任から2週間あまりでの外交デビューとなった李大統領は拡大首脳会議での演説や、日本の石破首相らとの首脳会談に臨み、韓国政治が正常軌道に戻ったことを国際社会に印象付けた。G7の場では初の対面となる米韓首脳会談も予定されていたが、トランプ大統領がイラン対応のため、日程を繰り上げ急遽帰国したため延期となった。
初外遊では妻の金恵景氏の動静にも注目が集まった。淡いミント色のワンピース姿で空港に現れた金恵景氏は、李大統領と腕を組んで専用機に乗り込んだ。機内で開かれた李大統領のサプライズ記者懇談会にも同席し、夫の傍らで会見を見守った。
金恵景氏と李大統領の出会いは35年前の1990年に遡る。若き人権弁護士として精力的に活動していた李在明氏は、知人の紹介で金恵景氏に会い、一目ぼれしたと告白している。金恵景氏はソウルの中流家庭の出で名門の淑明女子大ピアノ科を卒業、音楽留学の準備中だった。貧しい家庭に生まれ少年工として苦学した李在明氏は、金恵景氏のハートを射止めるため、10年分の日記帳を渡して求婚したという。
「私の人生で最もよかった選択は、妻と結婚したことだ」。この言葉の通り、李在明氏にとって妻との出会いは特別なものだった。
弁護士から政治家へ転身した李在明氏を支えてきた金恵景氏だが、大統領選期間中は表立った活動を控えていた。自身も公職選挙法違反容疑で裁判中だったためだ。
だが、ファーストレディになってから、表舞台に登場する場面が増えている。特に存在感が際立ったのは、カナダ州知事主催の歓迎レセプションだった。
金恵景氏は緑色のチョゴリ(上着)と黄色のチマ(スカート)の韓服を着用し韓国の伝統美をアピールした。大統領室は行事のドレスコードが正装もしくは伝統衣装だったが、正装がほとんどの中、韓服姿の金恵景氏は注目を集め、多くのゲストから写真撮影を求められたと説明した。
また、李大統領とは別に初めての単独日程も組まれた。金恵景氏はカナダ在住韓国人との懇談会や障がい者芸術センター訪問を通じ、現地の人々との交流に努めた。この時も淡い水色のシンプルなワンピースを着用した。
■前ファーストレディとの比較
ファーストレディ外交と言えば記憶に新しいのが、尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領の妻、金建希(キム・ゴニ)氏の外遊スタイルだ。韓国メディアも新旧ファーストレディの比較に余念がない。
金建希氏の外交デビューは2022年6月にスペインで開催された北大西洋条約機構(NATO)首脳会議だった。金建希氏は3泊5日の日程中、多彩なファッションで人々の視線を惹きつけた。出国時は白地にクルミボタンがあしらわれたAラインのワンピース、公式晩さん会には鮮やかな緑色のスカートに黒のショートジャケット、白地に花柄の装飾があしらわれたドレスにそろいの白の手袋、水色のショートジャケットが印象的なツーピースなどモデル顔負けの着こなしを見せた。
各国ファーストレディの中でもひときわ存在感を放つ金建希氏の洗練されたスタイルは、「ファッション外交」として一目置かれるほどだった。同じファッションでも伝統衣装で韓国をアピールした金恵景氏とは対照的だ。
ファーストレディとしての訪問先にも顕著な違いが見て取れる。金建希氏は大学教授や文化芸術企画会社の代表としてキャリアを積んできた。このため、単独日程では自身のキャリアの延長線上にある文化芸術関連の視察や活動を選ぶことが多かった。大統領を立てるというよりは自身の個性を前面に打ち出すスタイルで、異彩を放った。
過去の大統領夫人のイメージを一新したとも言える金建希氏だが、自由奔放なスタイルゆえのトラブルも相次いだ。大統領室に所属していない民間人を外遊に同行し専用機に同乗させたり、外国訪問中に警護員と随行員を伴ってブランド店巡りをする姿が海外メディアに捉えられ批判を浴びた。大統領だった夫より立場が上のように振る舞い、物議を醸したこともある。
前ファーストレディと比べると、現在の金恵景氏の振る舞いは控えめに映る。李大統領への随行を優先し、単独行動では夫の政治活動を補完する伝統的な「大統領夫人」スタイルに徹しているように見える。
■疑惑再捜査で絶体絶命の金建希氏
李在明政権が発足したことで、尹前大統領夫妻の捜査にも拍車がかかった。大統領時代に尹錫悦氏が出した非常戒厳の真相や、金建希氏をめぐる複数の疑惑などに対し特別検察官による捜査が決まった。金建希氏をめぐっては株価操作や高級ブランドバック受領疑惑など16の容疑が対象となり、40人の検察官が半年近く捜査にあたる。
これまでは検察などが捜査してきたが、今後は全て特別検察官にゆだねられることになる。特別検察チームは人選と体制作りを進めており、早ければ7月1日から捜査を開始する見通しだ。
金建希氏に対する特別検察官法は尹政権下で4回国会を通過したが、いずれも当時の尹大統領が拒否権を行使して廃案となっていた。捜査の手が迫る中、金建希氏は持病のうつ病が悪化したとして入院中だ。検察の対面調査にも健康状態などを理由に一度も応じてこなかったが、今後は特別検察官による捜査が焦点となる。
一方、現ファーストレディの金恵景氏も公職選挙法違反の控訴審判決で有罪となり罰金150万円を言い渡され、金恵景氏側は判決を不服として最高裁に上告した。しかし、裁判は大統領選挙後に延期され、もはや有名無実化している。
政権交代により大きく明暗が分かれた新旧二人のファーストレディの運命は、韓国政治の縮図ともいえよう。